3年前の前回衆院選から原発政策は大きく変わった。岸田前政権は次世代型原発へのリプレース(建て替え)や、最長60年としてきた既存原発の運転期間の延長を認めるなど、十分な議論がないまま、福島の事故を受けて進めてきた「脱・原発依存」から大きくかじを切った。なし崩しで進む原発回帰だが、今回の衆院選でも議論は低調なままだ。
「原発の20年延長の話は、もう夏前には終わった感じ。衆院選では話題になっていない気がする」
九州電力川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市で飲食店を経営する40代女性は振り返る。川内原発では、1号機は7月に原則40年とされる運転期間を超え、国内で4基目となる最長20年の延長期間に入った。2025年11月には2号機も40年を超える。
運転延長を巡っては、20年の知事選で「安全性の検証」を訴えた塩田康一氏が初当選。22年に九電が原子力規制委員会に運転延長を申請すると、23年10月には市民団体が約4万6000人の署名を集め運転延長の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求をするなど議論の盛り上がりを見せた。
だが、県議会は条例案を否決。同年11月には原子力規制委が延長を認可し、翌12月には、薩摩川内市の田中良二市長や塩田氏が相次いで容認した。
今年7月の知事選では、原発について目立った議論が交わされることなく、産業振興などを訴えた塩田氏が延長反対を掲げた新人に大差を付けて再選。今月20日には薩摩川内市長選が告示されたが、田中氏以外の立候補はなく、あっけなく無投票再選が決まった。
衆院選では、原発の利用について、自民党、日本維新の会、国民民主党などが推進の立場なのに対し、共産党、れいわ新選組は脱原発を掲げる。立憲民主党は、公約では触れていないが党綱領に原発ゼロを明記する。だが、薩摩川内市を含む鹿児島3区から立候補する、自民と立憲の候補者は発言内容は違えど、いずれも運転延長に容認の立場で、大きな争点となっていない。
市民団体「川内原発建設反対連絡協議会」の鳥原良子会長は「立地する地元では、原発関連の仕事に就いている人も多く、争点にしたくないだろうけど、選挙でしっかり考えを示すべきだ」と注文する。
福島の事故後、玄海原発(佐賀県玄海町)の2基を含め原発4基が再稼働している九州電力管内は、全国でも電気料金が低く抑えられている。ただ、原発賛成の立場を取る市民からも「安全性について『わかりにくい』『不安だ』という声はある。市民に理解してもらうよう説明してほしい」との声が上がる。
一方、原発利用とセットで語る必要がある「核燃料サイクル」も、実現が見通せないままだ。原発から出る使用済み核燃料を再処理し、核燃料として再び原発で使う計画だが、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場ではトラブルが続き、1997年の完成予定だったのが27回も延期されている。
再処理工場が稼働できたとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下に「地層処分」する最終処分場建設のメドも立たない。
最終処分場に絡んでは5月、玄海町が原発立地自治体として初めて、選定調査の第1段階である「文献調査」受け入れを表明。脇山伸太郎町長は「国民的議論の喚起」を求めた。
だが、安全性や風評被害への懸念は強く、どの自治体も簡単に手を挙げられないのが現状だ。選定を進める原子力発電環境整備機構(NUMO)が02年に公募を始めたが、調査を受け入れたのは北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、玄海町の3自治体にすぎない。
国内で原発が稼働して半世紀超。使用済み核燃料は各地にたまっており、原発利用の賛成、反対を問わず最終処分場整備は避けては通れない問題だ。だが、脇山氏の願いとは裏腹に、県内の選挙区でも議論は深まっているとは言い難い。
玄海町の調査受け入れに積極的に関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は「選挙戦では政治資金の話ばかりで原発政策には触れもしない。(放射性廃棄物の処理など)『バックエンド対策』はまだ国民全体がよそ事のような感じだ。エネルギー安全保障など、本来国にとって大事な政策をもっと訴えてほしい」と求めた。
【毎日新聞】