東京電力福島第1原発事故の慰謝料増額を求めた国の裁判外紛争解決手続き(原発ADR)が打ち切られたことを受け、福島県浪江町民が国と東電に80億円超の損害賠償を求めた訴訟は14日、福島地裁(小川理佳裁判長)で原告696人全員と東電との和解が成立し、国への訴えが取り下げられて終結した。東電の謝罪や、2022年12月に見直された国の基準を上回る慰謝料の支払いなどを条件とした。金額は非公表。
小川裁判長は2月に提示した和解勧告書で「結果回避可能性などの点から国の法的責任を問うことは困難」とする一方で、東電と国に対し「防災対策を真摯(しんし)に検討すべきだった。事故防止の取り組みを徹底し、浪江町の復興に向けた取り組みに尽力することを強く期待する」との考えを示していた。
原告団によると、原発事故から13年が過ぎ、町のADR申請者のうち900人以上が亡くなったという。原告団長の鈴木正一さん(73)は和解成立後の記者会見で「苦渋の決断。命には限りがあり、一刻も早い解決を望む思いから和解を選択した」と語った。
東電は「引き続き紛争の早期解決を目指し、真摯に対応する」とコメント。原子力規制委員会は「福島の復興に向け、廃炉作業が安全かつ着実に進むよう十分な監視や指導などを行っていく」とする山中伸介委員長の談話を発表した。
浪江町は13年5月に町民の代理人として集団ADRを申し立て、国の原子力損害賠償紛争解決センターは14年3月、一定期間は慰謝料額を上乗せする和解案を示した。しかし東電は一律の和解を拒否。18年4月に和解手続きが打ち切られた後、住民の一部が提訴していた。【毎日新聞】