――特定帰還居住区域への帰還について、国の意向調査に34%が「帰還したい」と回答しました。意向調査とはいえ、復興拠点の帰還率よりも高い。なぜですか。
「帰っても帰らなくても、除染するのは当たり前だと思っている町民が、私の印象では8割います」
「国は帰還困難区域を、いくら長く時間かかっても除染して解除すると言ってきた。そのときは事業者(東京電力)の責任で除染をしていく仕組みだった。だが、復興拠点の制度が始まってから、除染の費用は国の負担に変わり、国民は『除染して本当に帰るのか』と意見を出せるようになった。特定帰還居住区域の制度も国民の理解が大前提。ただ、被災している人が、国の負担と受け止めているわけではありません」
――理解されていないのはなぜですか。
「国がちゃんと説明していないから。設定当時の帰還困難区域には、除染や様々な(復興の)制度はなかった。後から法律も変えて制度をつくったわけだから。町民はわからないでしょ。だから苦労しています」
――復興拠点のように戻る人が少ないと、批判にさらされます。被災者には理不尽では。
「そう、そこはね。制度を変えて、どうにか帰還困難区域をなくしていこうという途中段階なんです。だから被災者も国民も、誰も悪い人はいない」
――特定帰還居住区域が解除されても、山林など約7割が帰還困難区域のまま残ります。すべて解除するには「インフラ整備」など解除のための要件を変える必要はありますか。
「山林の損害賠償は終わっています。山林に帰る人はいない。家がないんだから。ただ、(解除の仕方は)これから勉強しなきゃ軽々に言えない。デリケートな話です」
――住民票を浪江町におきながら、避難先などに実質転出している人の住民票について、どう対応しますか。
「住民票を整理しなきゃいけない時期はくるが、帰還困難区域が一定程度なくならないと、住民票の整理なんてできないでしょう。入っちゃ駄目っていう地域がまだある。俺は帰るんだっていう人もいる。そんなときに住民票の整理は不可能でしょう。ほかの町村に比べ浪江の帰還困難区域は広い。山林も深い。住民票の議論は、復興状況によって左右されるところなんです」(聞き手・大月規義)
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〈浪江町〉 帰還困難区域が町の面積の81%を占めた。同区域に住民票があったのは町民の17%にあたる3654人。昨年3月末に同区域の一部が、特定復興再生拠点(復興拠点)として避難指示が解除され、現在、同拠点に住民票がある世帯の5%(19世帯)が戻って暮らす。復興拠点ができても、町面積の78%は帰還困難区域として残っている。
新たに避難指示が解除される特定帰還居住区域では、少なくとも710ヘクタールが除染される予定。【朝日新聞】