能登半島地震で電源設備の一部が使えなくなるなどのトラブルが相次いだ北陸電力志賀原発(石川県志賀町)は、かつて金沢地裁から2号機の運転差し止め判決を受けました。当時、裁判長を務めていた井戸謙一弁護士は、今回の地震で原発の避難計画が「絵に描いた餅」であることが明確になったと指摘しています。
――今回の地震をどう見ていますか。
「2006年に私が志賀原発2号機の運転差し止め判決を出した時、いちばん問題になっていたのは、内陸の『邑知潟(おうちがた)断層帯』でした。(今回の地震が起きた断層が広がるとみられる)海域は三つの断層が把握されていたけれども、いずれも数キロでほとんど問題になっていなかった。それが、07年に能登半島地震が起きて海底調査が本格化し、10年ごろに能登半島の北側に(より長い)断層があるとわかってきました」
「今回、言われている150キロにわたって断層が動くなんて、北陸電も想定していなかったし、そんなことを言う学者もほとんどいなかったんじゃないでしょうか」
原発は「必要悪」と思っていたが…
――志賀原発2号機の再稼働に向けた審査では、能登半島北側の断層が連動する長さは96キロと北陸電は想定しています。
「海底の活断層は、音波探査などをしていますが、陸地以上に難しいのだと思います」
「地震による揺れを予測する『強震動地震学』の進歩のためには、過去の地震の詳細なデータが必須ですが、日本で詳細なデータが取られるようになったのは、阪神・淡路大震災(1995年)以降です。20年ちょっとのデータだけで将来の地震が正確に予測できるはずがありません」
――日本で原発を動かすことをどう考えますか。
「これだけの地震多発地帯で原発を動かしているのは、世界でも日本だけではないでしょうか。『原発はほかの国もやっている』と言われるかもしれないけど、ほかの国がやっても、日本だけは原発はやっちゃいかんと私は思います」
――金沢地裁で志賀原発2号機の運転を差し止める判決を出した時から、そうした懸念があったのでしょうか。
「判決を出した当時は、原発がないと日本の電力供給はまかなえないと思っていました。『必要悪』として受け入れざるを得ない。ただ、やるんであれば安全性を高めてください、というのが判決の趣旨でした」
「ですが、東京電力福島第一原発事故後、原発がなくても電力は足りた。経済的にも再生可能エネルギーのほうが安くなった。原発を使えば、当面の電力会社の利益にはなるかもしれないけど、長い目で見たら経済的にも不合理で、それだけリスクを冒してまでやらなければいけないのか、と今では思います」
【朝日新聞】