東京へ、首都圏へ世界最大級の原発は電気を送り続けた。新潟県に建つ東京電力柏崎刈羽原発。一体誰のための原発なのか。何をもたらしたのか。新潟日報社は長期企画で、新潟から原発を巡る疑問を考えていく。プロローグでは「住民避難」を考える=敬称略=。(住民避難編・10回続きの5)
吹き付ける潮風の音に混じり、エンジン音がうなりを上げた。海から砂煙を上げて浜辺に現れたのは自衛隊の水陸両用船。普段着姿の住民たちが乗り込んでゆく。互いの話し声が聞こえないほどのごう音が響く船内で、一様に耳栓をし、視線を落として出発の時を待った。
2023年10月下旬、東京電力柏崎刈羽原発での重大事故を想定して国と新潟県が行った原子力防災訓練。柏崎市西中通地区の住民約60人が、柏崎中央海水浴場から水陸両用船で沖に出ると、乗り物ごと別の船に収容され上越市へ向かった。
国と新潟県による防災訓練で、砂浜から海上自衛隊のLCAC(揚陸艇)に乗り込む住民。この後、沖合で輸送艦「おおすみ」に乗船する=10月28日、柏崎市中央海水浴場
「揺れがきつかった。小さい子を連れていると厳しい」と、小学生の娘と参加した女性(49)。訓練に初参加した契約社員、根津綾子(70)は「緊急時に船をすぐに用意できるのか。海が荒れれば乗れないし、うまくいくのかね」と話した。
今回の訓練に参加したのは、原発が立地し事故時はすぐに避難する半径5キロ圏の柏崎市と刈羽村のほか、原則屋内退避となる5〜30キロ圏の地域を含む長岡市など5市の人々だ。有事への備えをし続けなければならない。
原発事故を想定した訓練は、新潟県が「広域避難計画」を策定した2019年から毎年行われている。それ以降、訓練に参加する機関や住民の数は増えてきた。
それに伴い、訓練費用は右肩上がりの傾向だ。22年度は4600万円、23年度は国の訓練と一体で実施したこともあり、予算ベースで7100万円と過去最大に伸びた。
2011年の東京電力福島第1原発事故以降に原発が再稼働している他県の例をみると、ともに23年度で福井県は約4400万円、鹿児島県は約5200万円となっている。金額でみれば、新潟の訓練は再稼働した地域並みに「充実」している。
原子力災害に備えた訓練に当たる新潟県の職員ら=10月27日、新潟県庁
今年18年ぶりに国と一体となって訓練を実施した新潟県は、「徐々に訓練の内容と必要性が県民に浸透してきた」と胸を張る。ただ重大事故が現実となった時、避難計画通り逃げられるのかという「実効性」については、地元住民をはじめ懸念を示す向きも多い。
住民避難編「実効性」の<下>に続く>>
【新潟日報】