東京へ、首都圏へ世界最大級の原発は電気を送り続けた。新潟県に建つ東京電力柏崎刈羽原発。一体誰のための原発なのか。何をもたらしたのか。新潟日報社は長期企画で、新潟から原発を巡る疑問を考えていく。プロローグでは「住民避難」を考える=敬称略=。(住民避難編・10回続きの2)
「雪国の実情を全く分かってない」。2023年12月上旬、新潟県庁で開かれた柏崎刈羽地域原子力防災協議会の作業部会。オブザーバーとして参加した小千谷市防災安全課長の大平忍(55)は、会合後、名刺交換のため近づいてきた国土交通省の担当者に向かって声を荒らげた。
作業部会では原発事故と大雪が重なった場合の対応について、国の主導で議論が進められている。内閣府は、住民には原発から半径5キロ圏に暮らす人を含め、大雪の際は自宅など建物内にとどまってもらう方針だ。避難経路の除雪が完了するまで屋内退避を継続するとの案も示す。
この日の作業部会では、道路管理者が除雪できなくなった場合、自衛隊などの実動組織が担うとの方向性が説明された。
1年前の大雪に伴う車両立ち往生や停電で、市民の命にも関わる事態を経験した大平は、疑問に思う。豪雪時に自衛隊がたどり着けるのか。雪を甘く見ていないか。
「雪国の暮らしがどんなものか、実際に来て体験してみてほしい」。住民避難の議論をリードする国の担当者らに、大平が言いたいことだ。
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柏崎刈羽原発から半径5キロ圏内の柏崎市と刈羽村をはじめ、5〜30キロ圏に入る小千谷市や長岡市など計9市町村は、住民の安全を守るための避難計画を策定済みだ。ただ、大雪時の対応など新たな課題が次々に生じてくる。
「地震で道路が傷めば除雪すら難しい」「住民を屋内にとどめておくことができるのか」。新潟県内全30市町村でつくる「原子力安全対策に関する研究会」が11月に新潟市中央区で開いた実務担当者会議でも、各自治体から悩む声が上がった。
複数の市町村にまたがる可能性がある住民避難への備えには自治体間の調整が不可欠で、単独で取り組める範囲は限られる。
十日町市防災安全課副参事の蔵品徹(61)は「『県と調整中』と言わざるを得ない部分が多く、市民に説明できる範囲は限られる」ともどかしさを口にする。長岡市原子力安全対策室課長の吉田孝行(52)は「自分の市だけ避難計画の実効性が上がればいいという問題ではない。国や県の調整の役割は大きい」と話す。
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各自治体が挙げる課題について広域調整の役割を担うのが県だ。その県は国の方針が第一だとする。
新潟県原子力安全対策課長の金子信之(58)は、豪雪時の対応などについて「国の方で議論していく部分も多い。市町村の意見を踏まえ、国へ求めていくことになる」と話す。
原子力規制委員会の行政事業レビューにも携わる龍谷大政策学部教授の南島和久(51)=行政学=は、原子力防災では「原則として市町村が責任を負い、市町村ができないことを補うのが県の役割だ」と説明する。
ただ、原子力関連業務の経験に乏しい自治体は、国の方針やマニュアルに頼らざるを得ないのが実情だと指摘する。「住民が安心し納得できるような説明を、県がしっかりと補完していかなければならない」と語る。
一方、避難計画の基となる「原子力災害対策指針」を策定した責任者の思いは別にあった。【新潟日報】