中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
東京電力など大手電力7社が6月から電気代を値上げしました。エネルギー危機に端を発したもので、天然ガスや石炭価格の上昇を価格に転嫁しきれなかったためです。赤字供給を続けると電力会社の健全な経営を維持できません。7社は「電力・ガス取引監視等委員会」の厳しい審査を通過し、経済産業大臣の認可を受けた上でようやく値上げができました。 不思議なのは、関西電力がそこに含まれていない点。同じ電気を供給する東京電力と関西電力は何が違うのでしょうか。
原子力発電所が再稼働できない東京電力
2社の一番の違いが電源構成。2022年の実績で、関西電力は電源の2割を原子力発電で賄っています。ロシア産の禁輸で価格が高騰したLNG(液化天然ガス)による火力発電は2割程度しかありません。
その一方で、東京電力はLNGなどのガスによる火力発電が半分以上(52%)を占めています。これは東京電力が、柏崎刈羽原子力発電所の1号機から7号機まですべてを停止しているため。原子力規制委員会は今年5月、侵入者に対する監視体制が不十分などとして、運転禁止命令を解除しないことを決めました。 東京電力は今年10月の再稼働を目指していました。しかし、再調査が必要で地元住民の同意も得られておらず、年内の稼働は絶望的と見られています。なお、6月の値上げには再稼働計画が盛り込まれていました。
東京23区と大阪市の電気代を比較してみると…
原子力発電は業績にどれほど影響を与えているのでしょうか? 東京電力の2023年4-6月の売上高は1兆6151億円、営業利益は1511億円でした。営業利益率は9.3%。関西電力の同期間の売上高は9665億円、営業利益は2563億円です。営業利益率は26.5%であり、2社の利益率には17.2ポイントもの差が生じています。
関西電力の電気代が東京電力と比較して高いのかと言えば、そうではありません。料金体形が異なるために単純比較をするのが難しいため、参考値として総務省の家計調査で二人以上の世帯の電気代を比較します。
2023年4-6月の東京23区の一世帯あたりの電気代支出額は3万1082円。1か月あたりに直すと1万361円となります。大阪市は2万7709円で、1か月あたりの金額は9236円。大阪市の方が1割程度安くなっています。
同じ電気でも作り出すコストに圧倒的な差が
電力が自由化されて様々な事業者が参入していますが、資源エネルギー庁の調査(「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」)によると、東京・関西ともに新電力のシェアは2割程度。依然として大手電力会社が圧倒的な割合を占めています。家計調査の結果は、東京電力と関西電力の電気料金が色濃く反映されていると考えて間違いないでしょう。
2社の電気事業営業収益と電気事業営業費用の比率を算出すると、東京電力が90.5%で関西電力が71.7%。18.8ポイントの差がついています。電気事業営業費用は発電所の稼働に必要な費用が多くを占めています。原子力発電所を稼働させている関西電力は、極めて効率的に電気を作り出していると言えるでしょう。
以前の水準まで原子力発電所の稼働を高めたが…
実は関西電力は2023年4-6月において、原子力利用率を大幅に引き上げました。29.1%から78.3%まで高まっています。
関西電力の業績をセグメント別に見ると、2023年4-6月のエネルギー事業の経常利益は2342億円でした。前年同期間は202億円の赤字。増益に貢献したのが原子力利用率の上昇で、920億円の押し上げ効果が働いています。
原子力利用率とは、原子力発電所の設備利用率を表しています。関西電力は2010年まで70%台の稼働を維持していました。しかし、福島第一原子力発電所の事故が起こった2011年以降に利用率は急低下します。
2021年度に利用率は61.0%まで高まりましたが、70%を超えることはありませんでした。2023年4-6月は事故が起こる前の水準まで稼働を引き上げた結果、電気料金の上昇を抑えたまま高い収益性を維持していると見ることができます。低コストで発電できる原子力発電所は、企業の業績だけでなく電気代にも強い影響力を持っているのです。
原油価格が上がれば…
ここにきて、更なるエネルギー高を予感させる不穏な空気が流れています。パレスチナ自治区を実効支配するイスラム組織ハマスと、イスラエルの大規模な衝突です。今のところ、原油価格が急上昇する気配はありません。しかし、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉で合意が得られなければ、原油の増産が見送られる可能性があります。
更にハマスを支持するイラン産の原油輸出が制裁によって禁止されることになれば、原油価格を押し上げてエネルギー高を招く可能性は十分にあります。
電気料金の更なる値上げは、国内の政権批判を招くことにもなりかねません。原子力発電所の再稼働の行方に注目が集まるでしょう。
【日刊SPA!】