新潟県が13日公表した、東京電力福島第1原発事故に関する県独自の「三つの検証」の総括報告書は、これまで有識者会議がまとめていた報告書を要約し、「矛盾および齟齬(そご)はなかった」とまとめる内容だった。検証開始から11年たってのこの総括に、県内からは批判的な声が上がった。
「これじゃ、“宝の持ち腐れ”じゃないの」――。柏崎刈羽原発の再稼働に慎重な市民団体「柏崎刈羽市民ネットワーク」代表の竹内英子さん(54)は報告書を読んであっけにとられたと振り返った。「せっかく大勢の専門家を集めて福島第1原発事故の原因や課題などについて議論したのに。(総括報告書は)単に各検証委の報告書を整理して一つにしただけ」と批判した。
「三つの検証」は当初、検証総括委員長ら専門家がまとめる予定だったが、池内了・前委員長と花角英世知事の意見が対立し県が総括することに。竹内代表は「福島第1原発事故の課題や教訓を柏崎刈羽原発に当てはめて、県民の安全を守ることができるのか。専門家が議論した上で、どうなのかを提示してほしかった」と強調した。
また池内・前検証総括委員長は同日記者会見し、「三つの検証は新潟県内の原子力発電所に関する検証だった。報告書は福島事故に意図的に限り、当初の委員会の設定と本質的に異なっている」と批判。検証で柏崎刈羽原発の安全対策に福島の原発事故をどういかすのか具体的に示されておらず、「欠陥がある検証報告書で、本当に(再稼働の是非についての)県民の信を問えるのか」と疑問を示した。
「『総括』などできていない」。県の総括を受け、柏崎市の桜井雅浩市長は13日、本人作成の「別紙」まで添付した批判的なコメントを発表した。
桜井市長はかねて県独自の検証作業には懐疑的で、「『三つの検証』が終わるまでは再稼働の議論はしない」とする花角知事に議論の前進を促してきた経緯がある。
総括報告書について、桜井市長は「結果は両論併記で終わるなど『総括』などできていない」と喝破した。具体例として避難委の検証を列挙。原発事故時にPAZ(原発5キロ圏)の住民を原発に向かって避難させるシミュレーションを県が採用し、避難委が追認したことを、「本来的な目的を見失っているのみならず、重大なミスリードを見逃している」と批判した。
桜井市長は県の検証委と、福島第1原発事故の調査を行った政府、国会事故調査委員会などとの調査・検証期間をそれぞれ示した「別紙」を添付。政府、国会事故調の結果と「異なる検証結果が得られたのだろうか」と疑問を呈し、暗に時間がかかりすぎたことを批判した。さらに「福島事故の検証が柏崎刈羽原発の現施策の検証に変わってきている」との見方を示し目的が変質したと指摘。本来の目的に沿っていれば早期に総括できたとし、花角知事は「2回目の知事選で信を問うべきであった」とした。
また2012年に検証が始まった当時知事だった泉田裕彦衆院議員は「専門家が入らない形での総括は、客観性に疑念をもたせ、県民の信頼を得て議論を進められるのか疑問を感じる」とコメント。一方、ある自民党県議は「紆余曲折あったが、県による総括は評価する」。再稼働については「決めるのは知事」としつつ、「自民党県議の中では、東電が運営主体の再稼働はダメだという意見が大多数」と話した。
柏崎刈羽原発の再稼働を巡る、最近と今後の動き
2023年
5月17日 原子力規制委員会が、テロ対策の不備で柏崎刈羽原発に出している事実上の運転禁止命令を解除せず、検査の継続を決定
7月12日 規制委が東京電力の「適格性」を再確認する方針を決定
7月18日 花角知事が重大事故発生時に住民がスムーズに避難するための道路整備を求める要望書を国に提出
9月 6日 柏崎市の桜井市長が国が避難道路を整備しない場合は「再稼働は難しい」との考えを示す
9月11~13日 規制委が「適格性」再確認のため、柏崎刈羽原発で現地調査
9月13日 県が「三つの検証」を取りまとめ
秋から? 県が公聴会や説明会などを開催。県民の意見を聴取
12月ごろ? 「適格性」の再確認作業が終了
時期未定 追加検査の終了
時期未定 知事が再稼働について判断
三つの検証
東京電力福島第1原発事故に関する県独自の検証作業で、柏崎刈羽原発再稼働の要否を判断する材料との位置づけ。技術▽健康・生活(健康分科会、生活分科会)▽避難――の3委員会で、福島事故の原因と健康・生活への影響、原発事故時の避難方法などが検証され、それぞれ報告書が県に提出された。一方、検証総括委員会については最終的な取りまとめが行われないまま、3月末に委員長を含む委員7人全員の任期が失効。県は5月、委員を再任せず、県が総括する方針を示した。【毎日新聞】