東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理した後の水の海洋放出計画を巡り、政府は22日に関係閣僚会議を開き、24日に放出を始める方針を決めた。決定を受け、東電は最初に放出する処理水に海水を混ぜる作業を始め、具体的な準備に入った。
◆底引き網漁の再開前に測定結果を公表か
岸田文雄首相は「今後、数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組む」と述べた。
会議に出席した東電の小早川智明社長は終了後、記者団の取材に漁業関係者が懸念する風評被害が起きた際には「適切に賠償を行っていく」と説明した。
西村康稔経済産業相は福島県を訪れ、福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長に決定を伝えた。野崎氏は「われわれは(放出に)反対であるという形で今後とも臨みたい」と述べた。
東電によると、22日は処理水約1トンを海水約1200トンと混ぜて薄める作業に着手。浄化処理で取り除けない放射性物質トリチウムの濃度を測定し、政府方針の排水基準未満になっているかを確かめた上で、24日に放出作業に入る。
福島県沖では9月に底引き網漁の再開を控えており、その前に測定結果を公表して安全性を強調する狙いがあるとみられる。
◆「2051年には保管タンクをゼロにできる」
福島第一には、約134万トンの処理水が約1000基のタンクに保管されている。放出開始後は、2023年度中に約3万1200トン(タンク約30基分)の処理水を海へ流す計画だ。
汚染水は発生が続いており、新たな発生量をゼロとする抜本策がない。東電の試算では、汚染水が1日100トン増えると、23年度中に純減する処理水は約1万2200トンで、タンク約10基分が減るに過ぎない。
今後、放出量を徐々に増やす計画だが、年間に放出できるトリチウム総量は22兆ベクレル未満と定められており、タンクを急激に減らすことは難しい。
この日の記者会見で、東電福島第一廃炉推進カンパニーの松本純一氏は「(廃炉完了目標の)51年には保管タンクをゼロにできる」と説明。しかし、汚染水の発生を止めない限り、処理水の放出は終わらない。汚染水ゼロへの取り組みを問われた松本氏は「発生量をできるだけ少なくしたい」と述べるだけだった。
「汚染水ゼロ」への道筋がないまま、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が始まることが決まった。タンク保管の限界という危機は回避される。だが、汚染水の発生を止める切迫性が低くなった。事故当事者としての自覚に欠ける東電が、汚染水対策の優先順位を下げ、終わりのない放出になる未来が見える。
東電は事故後、汚染水問題を甘く見た。すぐに解決できると考え、耐久性の低いボルト締め型のタンクを急造。汚染水は止められず、タンクからの水漏れ事故を続発させた。批判が強まると、政府が汚染水対策の関係閣僚会議を設置し主導するように。東電は難題に向き合わず、政府任せの姿勢に終始している。
それを象徴するように、21年4月に政府が海洋放出の方針を決めて以降、小早川智明社長は漁業者たちに直接会いにさえ行っていない。「要望があれば会いに行く」。7月の私の質問にこう答えるだけだった。
22日の東電の記者会見に社長の姿はなかった。漁業者の理解は得られたのかとの質問に、処理水対策の責任者、松本純一氏は「『関係者の一定の理解を得た』という政府の認識の下、放出時期が示された」と繰り返した。傍観者のように振る舞う東電の幹部たちに、汚染水ゼロへの実行力は到底期待できない。
東京電力福島第1原発の処理水 1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却作業で発生する汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」で浄化処理した水。主に放射性物質トリチウムが除去できずに残っている。海洋放出計画では、処理水に大量の海水を混ぜ、トリチウム濃度を国の排水基準の40分の1未満にした上で、原発構内から地下トンネルを通じて沖合約1キロの海底に放出する。【東京新聞】