東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出を巡り、計画の安全性を検証してきた国際原子力機関(IAEA)は4日、放出計画は「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を公表した。計画通りの段階的な放出であれば、人や環境への放射線の影響は「無視できるほどごくわずかだ」と評価している。岸田文雄首相は風評対策やIAEAの報告書に対する理解の進展を見極めた上で「夏ごろ」を目標とする放出開始の具体的な時期を判断する方針。
来日したIAEAのグロッシ事務局長が同日、岸田氏と官邸で面会し報告書を提出した。岸田氏は「健康や環境に悪影響のある放出を認めることはない。科学的根拠に基づき、高い透明性を持って国内外に丁寧に説明していきたい」と述べた。
面会後、グロッシ氏は東京都内で記者会見し、放出計画について「包括的で中立的、科学的な評価が必要。そのことに自信を持っている」と強調。近隣国を含む放出への懸念には「全ての人の声を真剣に受け止め、客観的な答えを提供する」と述べた。5日に本県を訪れ、福島第1原発を視察するほか、地元の首長や漁業関係者らと面会する考えも示した。
報告書は、調査団が複数回の現地調査を経て、2年近くかけてまとめた。IAEAは、福島第1原発の敷地内に設ける事務所に職員が駐在するほか、国際社会に透明性と安心感をもたらすため、放出開始後も監視活動を続けるとした。一方で、海洋放出は日本政府による国家的決定であり「この報告書はその方針を推奨するものでも、支持するものでもない」と指摘した。
海洋放出を巡っては、放出関連設備の工事が6月に完了し、近く原子力規制委員会の検査に合格する見通しで、設備面の準備はほぼ整っている。一方、本県を含む漁業関係者らが反対の立場を堅持しているほか、中国や韓国でも批判が根強く、国内外での理解の醸成が課題となっている。
政府は2021年4月に海洋放出の方針を決定。計画では、放射性物質トリチウムの濃度が国の基準の40分の1未満になるよう海水で薄め、海底トンネルを通して原発の沖約1キロで放出する。
知事「国が責任持ち取り組み」
国際原子力機関(IAEA)が放出計画についての包括報告書を公表したことを受け、内堀雅雄知事は「処理水の取り扱いに関しては、国内外の理解醸成に向け、客観性や透明性を確保することが重要。国は報告書の内容も含め、国内外に向け科学的な事実に基づく分かりやすい情報発信を行うなど、責任を持って取り組むべきだ」とのコメントを発表した
安全と品質確保、報告書を生かす 東電コメント
東京電力は「包括報告書の内容をしっかりと確認し、処理水の放出に関する安全と品質の確保、向上に生かす」とのコメントを発表した。海洋放出に向けては「IAEAの国際的な安全基準に照らしたレビュー(評価)を受けることを通じ、安全確保に万全を期すとともに、国際社会に理解を深めていただけるよう努めていく」とした。【福島民友新聞】