原発活用にかじを切る「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が31日に成立したことで、原子力規制委員会は、経済産業省が運転延長を認可した老朽原発を規制する形になる。経産省が稼働を認めた原発を規制委が厳格にチェックできるのか。チェックの基準となる60年超運転に対する規制の検討では、規制委事務局の提案内容が不十分だとの指摘が相次いでいる。
◆当の委員からも疑問が出ている
「高経年化(老朽化)した原発をきっちり審査していくことがわれわれの責任だ」。改正法の成立後に記者会見した規制委の山中伸介委員長はそう強調した。
そもそも運転期間を巡る規制制度の変更は、規制委の委員5人のうち石渡明委員が「安全側への改変ではない」として反対を表明。多数決で押し切るという異例の事態となった。2020年にまとめた規制委の見解で「運転期間は利用政策(推進側)の判断であり、意見を言わない」としたことを根拠に、経産省による見直しを容認したものの、石渡委員は「当時はよく議論していなく、規制委全体の意思ではない」と納得せず、一枚岩になれないまま規制制度の検討に入った。
老朽原発に対する新たな規制の大枠は、運転開始後30年を起点に10年以内ごとに電力会社に管理計画の策定を求め、設備の劣化についてのデータや管理手順を審査する。山中委員長は国会答弁で「今までより高い頻度で審査し、より厳格な仕組みになる」と繰り返した。
しかし、現状でも運転開始後30年から10年ごとに管理手順の審査はしており、劣化データも参考資料として電力会社に提出させている。新制度では、管理手順とデータの両方の妥当性を審査することになるが、実質的にはそれほど大きな変更はない。
この新制度を議論した会合で、伴信彦委員も「今までもやっていたことをやろうとしているだけ。従来よりも規制がパワフルになるというのはミスリーディングではないか」と疑問を呈した。
◆規制内容は「これから」
60年を超えた原発の規制についての検討会では、現行の40年時点での運転延長の審査時に、電力会社に求めている詳しい点検「特別点検」を60年以降も求めるかが議論になった。
事務局の原子力規制庁が、電力会社が不要と証明できれば容認する提案をしたところ、石渡委員が「特別点検をもう一度やってもらうことに尽きる」と主張。原則として特別点検と同じ内容の点検を求めることになったが、電力会社の説明が妥当と判断できる場合は点検項目を減らせるとして、折衷案のような形になった。
規制委は新たな規制内容の詳細を法改正後に定めるとしており、具体的な審査手順などの作成作業が本格化する。山中委員長は31日の会見で淡々と話した。「これから規制委の真価が問われる」
◆延長対象にする「停止期間」の政府の基準も曖昧
原発60年超運転については、束ね法のうち改正電気事業法で規定。原発の停止期間の一部を60年以降の運転期間として加算する。国内では再稼働をしていない原発23基が停止中で、いずれも停止期間は11年以上。「追加延長」の対象は曖昧で、経済産業省のさじ加減で、なし崩し的に老朽原発が延命される恐れがある。
追加延長の対象となる停止期間は、再稼働審査など制度変更に対応するための停止▽行政指導による停止▽裁判所の仮処分命令や行政処分で停止した後、命令や処分が取り消されて止める必要がなかった期間▽電力会社が予想しづらい事態に対応する停止—。
国会審議で、政府は「電力会社の行為が原因で停止したことが明らかな場合は、(追加延長の)対象に含めない」と説明。テロ対策の不備で運転禁止命令を受けている東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)は、命令中の期間分は追加延長を認めない方針という。
ただ、電力会社側の説明不足による再稼働審査の長期化など、明確な処分がない場合は「ケース・バイ・ケースで判断する」(経産省)とはっきりしない。
政府は法改正後に運転延長認可の審査基準をつくるとして、国会でも詳細を明かさなかった。「制度変更への対応」「電力会社が予想しづらい事態」と厳密な区切りが難しい対象も入っており、原発を推進する経産省に厳格な運用ができるのか疑問符が付く。【東京新聞】