三菱重工業は原子力発電所の関連人材の確保に動き出した。2023年度と24年度にそれぞれ最大130人程度を新規採用する。22年度より約4割増やす。IHIも2年前に比べ人員を2割増やした。各社は11年の東京電力福島第1原発事故以来、人材を絞ってきた。政府は原発の建て替えなどを検討する方針に転換しており、各社は体制を整える。
三菱重工は原子力事業の拡大が見込まれるなか、原発関連の新卒や中途の採用を23〜24年度にグループでそれぞれ最大約130人まで増やす。22年度は約90人だった。23年2月には関西電力と合同で、学生を対象に原発の設計や製造、保守などを学べる初の研修を予定している。原子力以外の機械や電気、化学を専攻する学生にも対象を広げ、人材を掘り起こす。
震災前にはグループ会社を含め原発関連で約5000人の人材を抱えていたが、震災後に約1000人減らした。原発の新設が見込めない状況でも、再稼働や使用済み核燃料再処理工場などの関連事業を手掛け人員規模を維持してきた。
政府は次世代型原発の開発・建設を検討しており、三菱重工は安全性を高めた原発「革新軽水炉」について関電など電力4社と開発を計画する。世界的な脱炭素化の流れやロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー高騰により、各国で原発利用が見直されている。原発機器の輸出も増える見込みだ。
IHIは22年度に原子力関連人材は約800人と2年前の約650人から増やした。脱炭素化の流れで事業の縮小が見込まれる火力部門の人材も活用する想定だ。直近では原発の再稼働に向けた耐震補強の工事などで業務量が増えているという。
廃炉時の廃棄物処理や核燃料サイクル分野を手掛ける富士電機は、エンジニアを中心に人材が不足しているという。社内の他部門からの異動に加え、新卒や中途の採用で人材を補強していく方針だ。
ただ、人材の確保には障壁がある。原子力業界にこれまで人材を輩出してきた東海大学原子力工学科が、22年度から学生の募集を停止した。震災後約10年にわたる原子力業界の低迷は影響が大きい。
人材のつなぎ留めも欠かせない。日本電機工業会(JEMA)によると、原子力人材は震災直前の10年度と比べ21年度には26%減った。格納容器などは新設でしか経験が積めない。原発の新設に関わった技術者の定年が近づき、技能の伝承も危惧される。三菱重工では、30年ごろには新設案件に携わった世代の人材は230人となり、18年度(510人)から半減するという。
原子力関連企業は約400社ある。この10年で川崎重工業など約20社が撤退した。原発の新設の動きを見据え期待も高まる一方、慎重姿勢の企業も少なくない。ある大手機械メーカー幹部は「事業としての予見性が高まらないと積極的に投資はできない」と話す。
実際に電力会社が建て替えを進められるかも見通せない。政府は建て替えをする電力会社に対して複数年の収入を保証する仕組みを検討している。ただ次世代原発の実用化は30年代以降とみられ、先行きは依然として不透明だ。【日本経済新聞】