大阪地裁で20日、関西電力美浜原子力発電所3号機(出力82・6万キロワット)の差し止めを求める仮処分申し立てが却下され、関電側はひとまず胸をなでおろした。年末にかけての寒波の襲来でも安定した電力需給が見込めるほか、火力発電の代替で発生する月100億円の追加費用も回避できたからだ。ただ、関電は原発訴訟を9件抱え、「訴訟リスク」が消えたわけではない。電力の安定供給の基軸に原発を位置付ける路線に、なおも危うさがつきまとう。
「ひとまずよかった」。大阪地裁の決定に関電関係者は語りながらも、不安を吐露した。「大きな経費をかけて安全審査を進め、順調に稼働させても、いつ訴訟で止められるか分からない。決定を覆すのにも時間と労力がかかる」
関電が抱える原発訴訟は今回だけではない。同じ大阪地裁では、別の原告が美浜3号機停止の仮処分を求めて今年5月に提訴し、10月に結審するなど、現在、関電が当事者となっている原発訴訟は計6件。国が当事者で関電の原発がかかわる行政訴訟も計3件ある。
美浜3号機が停止した場合、関電は今年度で代替となる火力発電の燃料費として月100億円の追加費用が発生すると見込んでいた。同社は令和5年3月期で1450億円の最終赤字を予想しており、原発停止が与える業績へのダメージは大きい。
関電にとって美浜原発が持つ存在価値はそれだけではない。経済産業省が11月末に原発活用策の方向性をまとめた行動計画案は次世代型原発の開発・建設について、まず廃炉が決まった原発の建て替えを対象に進めるとしている。関電での候補地は1、2号機の廃炉が決まっている美浜原発も有力視されている。同社は三菱重工業と安全性が高い新型原子炉「革新軽水炉」の開発で合意。関電の森望社長は火力燃料費の高騰や将来の脱炭素化を踏まえて「原子力の必要性はより一層高まる」との認識を示しており、度重なる訴訟はその経営方針を揺さぶり続ける。
また、電力需給への不安もくすぶる。世界情勢による燃料費のさらなる高騰や自然災害、設備の故障などで火力発電が停止する不測の事態も起こり得るため、関西電力送配電は「原発が停止された場合の需給への影響は未知数」と話す。抱える訴訟によって、関電の原発重視路線は綱渡りを強いられている。【産経新聞】