東京電力福島第1原発事故で故郷を奪われ精神的苦痛を受けたとして、福島県南相馬市原町区の住民140人が東電に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁(小林久起裁判長)は25日、一審地裁いわき支部判決に続き東電の責任を認めた上で、国の賠償基準「中間指針」を超える約2億7900万円の支払いを命じた。指針見直しの検討が進む中で示された判決の意味合いを、弁護団は「全ての被災者の救済に向けて大きな意義がある」と強調する。
原発事故避難者らによる同種訴訟は全国に約30件あり、高裁判決は8件目。全訴訟で東電の責任が認められた。先行する7件で中間指針を上回る賠償を命じる判決が確定したことを受け、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が救済対象の拡大に向けた検討を進めている。
小林裁判長は判決理由で、東電はマグニチュード(M)8級の地震で原発敷地高を越える津波が発生し、原発事故が起きる危険性を2008(平成20)年4月には認識していたと指摘。そうであるにもかかわらず、「津波対策で原発が運転停止に追い込まれる状況は避けたいという経営上の判断を優先させた」と東電の姿勢を批判した。「原子力発電事業者の責務を自覚せず、結果回避措置を怠った重大な責任があった」と結論付けた。
賠償額については約1億4600万円とした2020(令和2)年11月の一審判決から約1億3300万円増額した。福島第1原発から20㌔圏内の住民に250万円、20~30㌔圏内には120万円の慰謝料をそれぞれ支払うよう命じた。過酷な避難を強いられたことに対する慰謝料を新たに認定した。一方、「ふるさとの喪失・変容」による慰謝料は一審より減額した。これらの慰謝料について、原賠審の専門委員は中間指針見直しに関する最終報告で、新たに類型化できる損害に挙げている。
原告側弁護団幹事長の米倉勉弁護士は高裁判決について「中間指針では評価を尽くされていない損害が認められた。指針の不十分さがますます際立った」と分析する。「指針が今後見直され、原告だけでなく全ての被災者救済につながることが重要だ」と語った。
一審判決は東電に対し、福島第1原発から20㌔圏内の住民に1人当たり150万円、20~30㌔圏内には同70万円を支払うよう命じた。原告、被告双方が控訴した。仙台高裁は今年4月に両者に和解勧告を出したが、東電が拒否したため決裂した。
東電は25日、「今後判決内容を精査し、対応を検討する」とのコメントを発表した。【福島民報】