西村経済産業大臣は30日、福島県を訪れ、東京電力福島第一原子力発電所にたまる放射性物質を含む処理水の放出をめぐって、地元の漁業者と意見交換し、懸念される風評被害への対策にしっかり取り組む考えを示しました。
福島第一原発にたまる処理水をめぐっては、東京電力が政府の方針に従って来年春ごろから海に放出する計画です。
これに関して、西村経済産業大臣は30日、福島県相馬市の漁港を訪れ、地元の漁業者と意見を交わしました。
冒頭で西村大臣は「震災後11年半にわたってご迷惑、ご負担をおかけしていることを改めておわび申し上げる。処理水の放出にあたっては安全性の確保と風評被害防止の徹底を前提としている」と述べ、理解を求めました。
これに対し、漁業者からは水揚げされた海産物が適正な価格で販売できるのかなど風評被害を懸念する声が相次いで出されました。
この対策として、政府は漁業者を支援するため300億円の基金を設けていて、漁業者からは冷凍できる海産物などを一時的に買い取るだけでなく、施設の整備などにも活用できるようにしてほしいと意見が出されていました。
西村大臣は「切実な声を受け止めて、1つでも実現できるよう取り組んでいく。風評被害への対策では、国内の対応に加え海外に向けても大使館やメディアを通じて丁寧に粘り強く進めていく」と述べ、漁業に影響が出ないようしっかり取り組む考えを示しました。
処理水放出に向け地元や漁業者の理解どう得ていくか課題
東京電力福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水の海への放出にあたっては、東京電力の計画を原子力規制委員会が認可し、福島県や地元自治体が施設の建設について了解したことを受けて、ことし8月から放出に使う海底トンネルなどの本格的な工事が始まりました。
東京電力は政府の方針を踏まえて来年春ごろからの放出開始を目指していますが、気象条件によっては必要な工事の完了が来年夏ごろにずれ込む可能性を示しています。
安全性の確保のため、IAEA=国際原子力機関による客観的なレビューも実施されていて、処理水の放出が終わるまで継続されることになります。
一方、海洋への放出については地元や漁業者から風評被害を懸念する声が根強く、政府と東京電力がどう理解を得ていくかも課題となっています。
この対応として、政府は、ことし8月に中長期的な風評被害対策などをまとめた行動計画を改定し、テレビコマーシャルやインターネットの動画サイトを活用した全国規模での理解促進など対策を進めています。
また、東京電力は風評被害が発生した場合の賠償の基準についても年内をめどにまとめることにしています。
西村経済産業相 福島の海産物販売 新たな枠組み構築へ
福島県内での視察のあと、西村経済産業大臣は記者団に対し、「処理水の放出によって漁業者のなりわいを妨げることがあってはならない。漁業を継続し、発展していけるよう販路や消費の拡大を支援していくことが責務だ」と述べ、全国の自治体や産業界などが連携し、福島県産の海産物を販売する新たな枠組みを年内をめどに構築することを明らかにしました。
一方、風評被害の対策としてすでに設けている300億円の基金とは別に、今後、新たに設ける予定の基金について、「300億円を上回る金額を用意できるよう調整していて、できるかぎり確保したい」と述べ、すでに設けている基金を上回る金額を目指していることを明らかにしました。
【NHK】