ドイツ政府は、今年末に全廃予定だった原発三基のうち二基の全面稼働停止を来年四月まで延期する方針を決めた。
ロシアによるウクライナ侵攻で電力やガスの供給が不安定になったための措置だが、原発事故を受けて踏み出した「脱原発」方針の継続に知恵を絞るべきである。
ドイツは天然ガスの55%をロシアから買い入れ、全世帯の半数で暖房用にガスを利用している。
しかし、欧米の経済制裁に反発を強めるロシアは天然ガスの供給を段階的に削減し、現在は完全にストップしている。
ドイツ政府は石炭火力発電の活用も検討したが、夏の干ばつでライン川の水位が下がり、石炭の運搬に支障が生じている。さらに、フランスの原発の半数以上が機器の不調で運転をやめ、電力の融通も受けられなくなった。
原発二基は非常用予備電源として待機させる。四月まで稼働させる案も浮上している。寒さの厳しい冬場の暖房を確保するためにはやむを得ない措置なのだろう。
ただドイツは、脱原発に向けた国際リーダー的な存在だ。
二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で原発の危険性を痛感した当時のメルケル政権は「脱原発」政策を決定。十七基あった原発を次々と廃炉にし、残る三基も今年末までに廃炉にして、脱原発を完了させる予定だった。
ドイツの電源構成に占める原発割合は6%で、再生可能エネルギーは46%に達する。
ウクライナ侵攻後、「三〇年までに八割を再生エネ」としていた目標をさらに引き上げ、「三五年までにほぼ100%を再生エネ」でまかなうことを掲げた。
商業用の新築建物への太陽光発電パネル設置の義務化や、再生エネで水を分解して得られるグリーン水素の産業エネルギー活用などで脱炭素化を進めるという。
緑の党出身のハーベック経済・気候保護相は「原発は今後ともリスクの高い技術であり、放射性廃棄物は次世代の負担となる」と原発の危険性を指摘する。
脱原発の道のりは険しいが、知恵を絞り信念を貫いてほしい。
【東京新聞】