東京電力福島第一原発事故で被害を受けた住民らが国と東電に損害賠償を求めて福島地裁に提訴した集団訴訟(生業訴訟第2陣)で5日、事故当時に福島県内に住んでいた473人が追加提訴した。追加提訴は今回で10回目で、原告数は1600人を超えた。
同種訴訟を巡っては、最高裁第二小法廷が6月、先行した生業訴訟第1陣と群馬、千葉、愛媛の4訴訟について、「現実の地震・津波は想定よりはるかに大規模で、防潮堤を設置させても事故は防げなかった」として国の責任を認めない判決を言い渡している。
今回提訴したのは、事故当時、南相馬市や浪江町、福島市などに住んでいた住民たち。弁護団は最高裁判決後も毎週末、県内各地で説明会を開いてきた。弁護団事務局長の馬奈木厳太郎弁護士は「事故から11年が過ぎ、最高裁では国の責任が認められない判決が言い渡されたなか、原告が増えた。判決を受け入れ難いと思っている人や、救済が不十分だと感じている人が多いのでは」と分析する。
この日は、福島地裁で第2陣訴訟の弁論もあった。
最高裁判決は、国が2002年に公表した地震予測「長期評価」に基づき、仮に東電に防潮堤を設置させていても、「海水の浸入を防げず、実際の事故と同じ事故が起きた可能性が相当にある」と判断。原告側は事故防止策として、建屋の水密化(浸水対策)などを主張したが、事故前に議論した知見はうかがわれないとして退けた。地裁、高裁段階で最大の争点になった長期評価そのものの信頼性や評価に基づく巨大津波への予見可能性についても、最高裁は明確な判断を示さなかった。
この日の弁論で、弁護団は最高裁判決について「防潮堤の設置とともに補完的に施工される水密化に限って判断し、防潮堤完成前の津波対策としての水密化については判断が示されていない。原子力規制に関する法令の趣旨、目的に触れることもなかった」と批判した。
事故当時、大熊町で生活していた原告の60代女性の陳述もあった。女性は涙ながらに、「国が原発を認めてやってきたのに、東電にだけ事故の責任を負わせるのは間違っている。11年経ったからといって、事故前の生活を忘れて生きていけるものではありません。国にもきちんと責任を取ってほしい」と訴えた。【朝日新聞】