ドイツ政府が今年末に計画する「脱原発」が揺らぎ始めた。ウクライナ侵攻を受けた欧州連合(EU)による経済制裁に対する報復措置として、ロシアがドイツへの天然ガス供給量を制限したことでエネルギー危機が拡大。独政府が稼働する原発3基の運転延長の検討を進めているためだ。
「原発から得られる電力はわずかだが、それでも(運転延長の)意味はある」。AFP通信によると、ショルツ独首相は3日、視察先で記者団にこう強調し、検討結果の報告書を近く公表する考えを示した。
保守連立政権を率いたメルケル前首相は2011年の東京電力福島第一原発事故を受け、当時17基が稼働中だった原発の段階的な運転停止を決定。同氏の引退で昨年発足した左派連立のショルツ政権も決定を引き継ぎ、昨年末に新たに3基を停止していた。
最後に残った3基は北西部エムスラント、南部イザール、同ネッカーウェストハイム原発の1基ずつ。全電源に占める構成率は6%程度にとどまる。
独政府は侵攻開始直後の3月初旬にも運転延長の可能性を検討したが「効果は限定的で経済、安全上のリスクを伴うため推奨できない」と結論付けていた。
だが、当時は安定していたロシアからのガス管「ノルドストリーム」の供給量は7月以降に最大値の40%、いまは20%まで急減。ロシアが完全遮断に踏み切る可能性もあり、原発3基の延長論が強まった。
ガスの供給量減少について、ロシア側はカナダで修理したノルドストリームのタービンの返却が欧米による経済制裁の影響で遅れていることが原因と主張。
一方、そのタービンを保管する独国内の工場を今月3日に視察したショルツ氏は「いつでも(ロシアに)返却できる」と述べ、ロシア側が受け取りを拒んでいる可能性に言及した。EU広報官は5日の会見で「ロシアの主張はEUへのガス供給を制限する言い訳に過ぎない」と指摘している。【東京新聞】