大手電力各社が負担している福島原発事故の損害賠償費用の一部について、きちんとした説明もないまま、負担額がひそかに軽減されていたことがNPO法人の調べでわかった。
軽減額は2021年度の1年間で293億円にのぼる。この事実を突きとめたNPO法人原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「電力ユーザーである国民にきちんとした説明もなく、やり方が不透明だ」と批判している。
電力各社の負担を約2割軽減
原発事故の被害者向けの賠償費用をまかなうために、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づき、東京電力ホールディングスなど大手電力9社と日本原子力発電、日本原燃の計11社は一般負担金と呼ばれる費用を負担してきた。
11社の一般負担金額は合計で年間1630億円と決められ、2011年度、2012年度はその一部、2013年度以降は全額を原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、原賠機構)に支払っていた。なお、2020年度には後述の「過去分」と呼ばれる追加負担として、別途305億円が上乗せされている。
松久保氏の指摘を踏まえて立憲民主党の山崎誠衆院議員が質問主意書を提出したところ、政府は2021年度の一般負担金の実質的な軽減額が293億円である旨を回答。同年度の実質的な負担は1337億円になっていた。
松久保氏によると、中部電力と日本原子力発電を除く9社の負担は2020年度比で約20%軽減されていた。中電は2.8%の負担増、日本原電の軽減率は約14%で、原発事故前から廃炉を進めていたという特殊事情があったという。
軽減について、原賠機構の担当者は「大手電力各社の経営状況が厳しい中、福島原発事故以前の利益水準をもとに決められていた従来の一般負担金の水準について、各社から引き下げを求められていた」と説明している。
経済産業相の認可を経て原賠機構が3月31日に公表した2021年度の一般負担金総額は、前年度比15億円増の1947億円だった。前出の担当者は「一般負担金の総額自体は2020年度と比べて大きく変わっておらず、電力ユーザー全体への負担は変わらない。一般負担金は毎年度法令に基づいて決めているもので、『軽減した』ということではない」と説明している。
だが、この説明にはからくりがある。
一般負担金には2種類あり、1つが福島原発事故の賠償に関連した負担金。もう1つが2015年、賠償費用が当初想定した金額を大幅に上回ることが判明した際に、増額分を託送料金(送配電線の利用料金)に上乗せして回収するために作られた過去分の一般負担金である。日本で初めて商用原発が稼働した1966年から福島原発事故が起こる2011年までに本来、徴収しておくべきだったのに徴収されていなかったとして、2020年度の下半期から新たに徴収されるようになった。
過去分の金額は1年分を徴収するようになった2021年度で約610億円。2021年度は過去分の前年比増分(305億円)があったために、前者の負担金の軽減額(293億円)が覆い隠される格好となった。
経産省、原賠機構はきちんと説明を
従来からの一般負担金のかなりの部分は電気料金の原価に算入され、ユーザーに転嫁されている。それを軽減したのであれば、本来電気料金引き下げの原資とすべきではないか。
電気料金を認可する立場の経済産業省がきちんと説明していないのも問題だ。重要な公共料金の改定に際しては、消費者庁や消費者委員会がチェックする仕組みもある。しかし、今回の一般負担金軽減については電気料金の改定と関係していないこともあり、消費者庁は「特段の協議もなく、情報提供を受けた事実もない」という。
一方、消費者委員会のある委員は、「初めて聞いた話で驚いている。やり方が不透明だ」と東洋経済の取材に答えている。
電気料金は仕組みや決定方法が複雑であるうえ、原発に関連する費用は事故が起きてから過去にさかのぼって新たに徴収されるなど、屋上屋を積み重ねる形で料金に上乗せされてきた。しかも、「一般負担金の決まり方はブラックボックスになっている」(松久保氏)。
現在、天然ガスなど化石燃料価格の高騰によって電気料金が値上がりし、家計の状況は厳しくなっている。その裏側で電力会社が秘かに負担軽減を認められていたという事実は、電力行政への疑念を引き起こしかねない。経産省や原賠機構は軽減の実態をつまびらかにすべきだ。
【東洋経済オンライン】