東京電力福島第1原発事故に伴い、避難した福島県民ら約3700人が国と東電に損害賠償を求めた4件の訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は17日、国の賠償責任を認めない初の統一判断を示した。国が事故前の想定津波に基づき東電に防潮堤を建設させる規制権限を行使しても、東日本大震災の津波による原発事故を防ぐのは困難だったと結論付けた。
裁判官4人のうち3人による多数意見。検察官出身の三浦守裁判官は国の賠償責任を認める反対意見を述べた。事故から11年を経て、世界最悪レベルの原発事故に対し、国策として原発を推進してきた国の法的責任が問われないことが確定した。
同種の集団訴訟は今回の4件を含めて約30件(原告総数1万2000人以上)起こされ、1、2審で国の責任を肯定する判決が12件、否定する判決が11件出て司法判断は割れていた。今後の判決は、今回示された判例に沿って出されることになる。
東電は2008年、政府の研究機関が02年に公表した地震予測「長期評価」に基づき最大15・7メートルの高さの想定津波を試算したが、国は東電に対策を取らせないまま震災が発生した。訴訟では、長期評価に基づけば津波を予見できたのか(予見可能性)と、国が東電に対策を取らせれば事故が防げたのか(結果回避可能性)が争点だった。
判決は、津波の予見可能性は検討せず、結果回避可能性のみ判断を示した。避難者側は訴訟で、防潮堤のみならず原発が浸水しないよう「水密化」の対策も必要だったと主張したが、判決は事故前の原子力規制に照らして求められる対策は「防潮堤の設置が基本」と退けた。
その上で、国が東電に想定津波に基づく防潮堤を建設させた場合に事故が回避できたかを検討。実際の津波は想定よりも規模が大きく、到来した方角も異なったことなどから「防潮堤を設置しても、同様の事故が発生していた可能性が相当ある」として、結果回避可能性を否定した。規制権限の不行使については「事故の発生との間に関係は認められない」と言及した。
4件の訴訟は福島、千葉、前橋、松山の各地裁に起こされた。最高裁は今年3月、先に東電側の上告を棄却し、賠償額は約14億円で確定した。今回、国の賠償責任が否定されたことで東電だけで同額を支払う。【遠山和宏】
原発避難者訴訟の最高裁判決骨子
・国は福島第1原発事故の賠償責任を負わない
・実際に到来した津波は規模も方向も東京電力が試算した想定津波と異なり、想定津波に基づき防潮堤を設けていたとしても事故を防ぐのは困難だった
・国の規制権限不行使と原発事故の発生との間に関係は認められない
【毎日新聞】