東京電力は二十日、本紙など茨城県政記者会の加盟社向けに福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の構内を公開した。高濃度汚染水を浄化処理した後の放射性物質トリチウムが残る水の海洋放出について、東電は「(反対する)漁業関係者の理解が前提」と重ねて強調。対象には本県の漁業者も含まれると明言した。(長崎高大)
バスで構内に入ると、目に入るのは敷地一面に広がる処理済み汚染水を保管するタンク群。一万トンの水が入るタンク百三十七本のうち、既に百二十九本が満杯になっている。
処理済み汚染水などが貯蔵されたタンク群の前で報道陣に説明する東電の担当者
処理済み汚染水などが貯蔵されたタンク群の前で報道陣に説明する東電の担当者
「一日平均百三十立方メートルの汚染水が発生していて、来年の夏か秋にはタンクが満杯になる」。渉外・広報ユニット広報室の高原憲一さんが説明した。
高原さんによると、新たなタンクを増設する計画はない。「敷地内に保管しなければいけないが、すでにいっぱい。今後は取り出した燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の保管場所など新たな施設も必要となる。海洋放出が最善と考えている」と理解を求めた。
沖合には大きな船が見えた。海洋放出に向け、放水トンネルの出口付近で土砂を掘っている浚渫(しゅんせつ)船という。原子力規制委員会の正式な認可はまだ出ていないため、「工事ではなく、工事前の環境整備をしている」(担当者)という。
その後、汚染水を浄化処理する多核種除去設備(ALPS)や、処理済み汚染水の放水トンネル入り口の工事予定地を回った。既に深さ十八メートルまで掘り下げられていたが、沖合一キロまで続くトンネルの工事については、担当者は「規制委の認可と地元自治体の同意があるまでは始められない」と説明した。
事故時の爆発で原子炉建屋の天井や壁が崩れ落ちたままの1号機。沖合の放水トンネル出口の工事予定地には、海底を掘る浚渫船が見えた=いずれも福島県大熊町で
事故時の爆発で原子炉建屋の天井や壁が崩れ落ちたままの1号機。沖合の放水トンネル出口の工事予定地には、海底を掘る浚渫船が見えた=いずれも福島県大熊町で
その後の質疑応答で、高原さんは「国の基準値を大きく下回るレベルまで(トリチウムを)希釈して放出するし、茨城県に届くまでにはさらに希釈される」と指摘。その上で「工事の開始は放出とイコールではない。社長以下、漁業者の理解が放出の前提と考えている」と話した。
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規制委は、東電が策定した海洋放出実施計画の審査結果をまとめた審査書案を十八日に了承。六月十七日まで意見公募(パブリックコメント)を実施した上で、正式に認可する。
審査書案の内容や意見募集要項は、規制委のウェブサイトで見られる。提出方法はインターネット、郵送、ファクスの三通り。
【東京新聞】