東京電力福島第1原発事故を受けた国の賠償基準となる「中間指針」について、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は19日、指針の見直しを含めた議論に着手する方針を示した。避難した住民らが国と東電に損害賠償を求めた集団訴訟では、最高裁決定で指針を上回る東電の賠償責任が相次いで確定しており、司法判断を重視した形だ。27日に会合を開き、議論を開始。原発事故から11年が過ぎた被害の実態に見合う内容に改定されるかが焦点となる。
判決確定を受け、県原子力損害対策協議会(会長・内堀雅雄知事)は19日、文科省に指針を見直すよう要望した。併せて、判決と同様の損害を受けた住民に対する公平な賠償や消滅時効を理由に賠償請求の機会が失われないよう求めた。高橋はるみ文科政務官は指針について「見直しなども含め、判決確定を踏まえた対応の要否について(原賠審の)議論が必要」とし、判決内容の分析などを進める考えを示した。
中間指針を巡っては、原賠審が2013年12月、精神的損害(慰謝料)などに関する新たな賠償指針を取りまとめて以降、大きな改定はない。避難生活が長期化する中、集団訴訟では最高裁がことし3月、福島、群馬、千葉の3件について東電の上告を退けると決定。二審判決のうち、総額約14億円の支払いを東電に命じる部分が確定するなど、中間指針を上回る判決が相次いで確定しており、司法判断から、指針が被害実態に即していない現状が浮き彫りとなった。
指針の今後の在り方を巡る原賠審の議論開始を受け、協議会の会長代理を務める鈴木正晃副知事は「新たな対応への第一歩と受け止める」と一定の評価を示した。一方で判決の賠償額や対象地域などが異なるため「多くの人が納得できる基準」を求めた。
原子力損害賠償紛争審査会による中間指針
文部科学省に設けられた原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月に策定した東京電力福島第1原発事故に伴う原子力損害の範囲判定等に関する指針。被災者を公平に救済するため、避難指示に伴う損害や風評被害、地方公共団体の財産的損害などに関する賠償などについて示している。これまで計4回追補されたが、13年12月を最後に大幅な見直しは行われていない。【福島民友新聞】