原子力発電所はテロや武力攻撃の標的になりうる――。そんな現実をいまさらながらに見せつけられた。ウクライナでロシア軍が相次ぎ原発を攻撃した。私たちは「国際法違反だからありえない」という理屈でこの脅威から目をそらしてきたのだが、現実がそれを許してくれなくなった。
「通常兵器による攻撃で原発が破壊される可能性は?」。先週、衆院の特別委員会で菅直人氏が質問した。3・11の際、首相として事故対応の最高指揮官をつとめ、東日本全域が放射能で汚染まみれになる恐怖に最もおののいていた政治家である。
更田(ふけた)豊志・原子力規制委員長は「通常兵器による攻撃で直接被害を受けたら放射性物質の拡散は避けられない」と答えた。東京電力福島第一原発事故のあと、原発の安全基準は厳しくなり航空機の意図的な衝突やテロへの備えも求めるようになった。ただしミサイル攻撃までは想定していない。
テロ対策はどうか。「全国の原発には自動小銃やサブマシンガンも備えた警備隊が365日24時間態勢で万全の警備をしている」(警察庁)という。とはいえ警護に自衛隊はかかわっておらず、警察の専従部隊があるのも発電所4カ所が集中立地する福井県だけだ。警護には限界がある。
原発メーカー首脳に武力攻撃やテロの危険性について尋ねたことがある。9年前、アルジェリアで起きたテロ事件では天然ガス生産施設がイスラム武装勢力に襲われ、日本人10人を含む40人が死亡した。国軍が介入しても惨事を防げなかった。原発で同じことが起きたらどうなるか。
福島で明らかになったのは原発はいったん電源を失えばメルトダウン(炉心溶融)に至ることだ。いくら炉心を分厚い防御壁で覆っても、武装集団に原発を襲われ電源を断たれでもしたらひとたまりもない。
【朝日新聞】