東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)で、1、2号機間にある高濃度の放射性物質で汚染された配管の撤去が難航している。現場は建屋の外では構内で最も放射線量が高く、遠隔操作による切断はトラブルが続発。背景には、東電の甘い想定と準備不足があった。
1号機(右)と2号機間の排気筒につながる配管は高濃度に汚染。太い配管の横に沿うようにある細い配管の撤去が予定されている=1月25日、東京電力福島第一原発で、本社ヘリ「おおづる」から
1号機(右)と2号機間の排気筒につながる配管は高濃度に汚染。太い配管の横に沿うようにある細い配管の撤去が予定されている=1月25日、東京電力福島第一原発で、本社ヘリ「おおづる」から
福島第一原発1、2号機間の汚染配管 2011年3月の事故直後、原子炉格納容器の破裂を防ぐため、炉内の汚染蒸気を放出するベント(排気)に使われた。直径約30センチで1号機側が約65メートル、2号機側が約70メートル。排気筒の接続部は、人が数時間とどまれば確実に死ぬ毎時4シーベルトの放射線量がある。周辺工事の障害物になるため、東電は配管を26分割して撤去する計画。
◆強風、放射性物質濃度、器具断裂…
「最初が一番難しい」。3月31日の記者会見で、東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明・最高責任者は声を落とした。
東電は当初、切断作業は1カ月ほどで終わると見込み、序盤で難航する予測を一切説明してこなかった。ところが、実際は1カ月たっても全く進んでいない。
準備期間中から、クレーンや切断装置を制御する油圧機器に不具合が相次ぐも、その場しのぎの対処に終始。手法や工程が適切かを十分検討しないまま、2月24日に作業を始めた。
汚染配管の切断装置の周りに集まる作業員たち
汚染配管の切断装置の周りに集まる作業員たち
4種類あるてんびん状の切断装置のうち、幅12メートル、重さ6トンと最大の装置を最初に投入。2月中は強風にあおられ、配管に近づくこともままならなかった。
3月1日にようやく切断を始めたが、開始直後に放射性物質の濃度上昇を示す警報が鳴り、チェーン状の切断器具も故障。翌日、切断器具の回転速度を落とし、切りくずの飛散を抑えて警報が鳴らないよう試みたが、器具が断裂した。
◆油圧ホース短く、能力発揮できず
小手先の対処で解決できず、高い放射線量の現場で模擬配管を使っての訓練を余儀なくされた。
その中で、切断装置につながる油圧ホースの長さを実際よりも4分の1短い状態として機材を設定していたことが判明した。このため油の量や温度が十分ではなく、切断器具が能力を発揮できなくなっていた。
大型クレーンでつり上げられた切断装置が直径30センチの配管をつかんでいる状態
大型クレーンでつり上げられた切断装置が直径30センチの配管をつかんでいる状態
単純ミスにつながった原因は、原発構外の訓練で実際のクレーン(750トン)よりも小さいクレーン(500トン)を使ったことだった。アーム部分に沿わせるホースはクレーンの大小で長さが異なる。この当たり前の違いを踏まえないまま、本番に臨んでいた。
◆作業完了「精査しないと...」
切断装置の設定を見直して満を持して臨んだ3月27日、今度は配管に切断器具が食い込み、動かせなくなった。クレーンで強引につり上げて難は逃れたものの、広報担当者は「配管がゆがんでいて、切断時に大きな力がかかっている可能性がある」と釈明。ただ、事故後に繰り返し地震が起きている中、ゆがみは当然想定すべき前提だ。
配管撤去は最初の糸口さえ見えず、緊急時に作業員が直接切る選択肢もない。撤去できなければ、1号機原子炉建屋上部の使用済み核燃料プール内にある392体の核燃料を取り出す設備の建設に取りかかれず、核燃料という最大級のリスクが残り続ける。
広報担当者はこれまで作業完了を「4月中」と言い続けてきた。しかし3月31日の会見では一転、小野氏は「精査しないと分からない」と言葉を濁した。【東京新聞】