東京電力福島第一原発の廃炉や事故調査を、どう進めるべきか。作業に関わる原子力規制委員会や地元の住民、専門家らがともに考えるオンラインのシンポジウムが開かれ、規制委に対して、海外の事例を参考に住民との対話を求める意見が相次いだ。
シンポジウムは15日にあり、早稲田大の研究者や地元の住民らで構成する「早稲田大学ふくしま広野未来創造リサーチセンター」が主催。はじめに規制委の担当者2人が、原発事故の調査や廃炉の課題、処理水の海洋放出に向けた海洋調査の計画について報告した。
リサーチセンター長の松岡俊二・早大教授(環境経済・政策学)は、米国ではスリーマイル島原発事故の後に、米国原子力規制委員会が住民らと対話する会議体を設け、13年間で78回の会合を開いたと紹介。対する日本は、処理水の処分方法を2013年から政府の専門家会議で検討していたが、住民との対話の場がないまま、政府は昨年4月に海への放出を決めた。
松岡さんは「これだけ時間をかけながら、一方的な説明に終始したため、いまも政府決定に対する社会の納得を得るのが難しくなっている。この教訓を肝に銘じる必要がある」と指摘。廃炉作業や事故調査を進めるうえで、住民との対話が重要だと強調した。
後半のパネルディスカッションは住民も加わった。処理水などをテーマに市民らが語り合う場を設けてきた弁護士の菅波香織さん(46)=いわき市=は「住民と国、専門家の間には、信頼関係が足りない」と現状の課題を指摘。処理水放出の賛否などで対立する議論ではなく、「何のために廃炉を進めるのか」という根本的な議論から始めることで問題意識が共有でき、「信頼を積み上げていけるのでは」と提案した。
富岡町の建設コンサル会社社長の遠藤秀文さん(50)は、規制委が説明した処理水放出に伴う海洋調査について「決定プロセスに住民は参加したのか。地域の視点はどこに入るのか」と疑問を示した。自身が海外で仕事をするときは現地住民の考えや自然環境への影響、プロジェクトのバランスを重視しているとして、「廃炉に関しては、このバランスをもっと考えないといけない」と訴えた。【朝日新聞】