「原発を争点にする候補者がいない」。茨城5区で地元の青年会議所が主催したオンライン討論会。司会者から立候補の理由を問われた共産党の飯田美弥子は、きっぱりと答えた。
5区には再稼働問題を抱える日本原子力発電東海第二原発(東海村)が立地する。だが、この討論会で原発を話題にしたのは飯田だけだった。
街頭演説などでも、原発を巡る論争は低調だった。
自民党の石川昭政は、選挙戦の序盤で応援に駆け付けた党政調会長の高市早苗が「原子力の若手三羽がらす」と太鼓判を押したほどの原発推進派。高市は石川の集会で新型原子炉の開発などを主張し、石川は傍らで大きくうなずいていた。
だが、選挙戦を通じて石川陣営が原子力に焦点を当てたのは、その時くらい。石川自身が有権者に直接、原発再稼働の必要性などを語り掛ける場面はほとんどなかった。
原発の争点化を避けたのは、国民民主党の浅野哲(さとし)も同様だ。全国で旧民主・民進党系の候補者一本化を進めた流れで、「原発ゼロ」を旗印とする立憲民主党県連の実質的な支援を受けたこともあり、積極的には再稼働問題に触れなかった。
浅野の出身母体は、原子炉製造部門を持つ日立グループの労働組合。選挙戦終盤の夕方、日本原子力研究開発機構の核燃料サイクル工学研究所(東海村)前に立った浅野は、退勤する職員らに、原子力を「重要な選択肢」と位置付けている党の政策への理解を求めていた。
だが、こうした場面は限定的で、選挙戦で浅野が取り上げたのは県北地域の振興や政治への信頼回復が中心だった。
共産は今回、浅野が原発再稼働反対の立場を取らないとみて、飯田の擁立に踏み切る。5区では県内七選挙区で唯一、「野党共闘」が不成立となった。
では、立民支持で、かつ「原発ゼロ」を重視する有権者の票はどこに行ったのか。5区内の野党系地方議員は「原発に関心がない人は浅野氏に入れたのだろうが、関心ある人は困ったかもしれない」と推し量った。
この議員は、石川や浅野が原発を巡る議論を戦わせなかったことに「ずるい」と不快感を示し、浅野を「立場を明らかにして(立民支持の)票が動くことを恐れたのだろうが、原発は重大な問題。はっきり言わなければいけない」と批判。立民にも「どっちつかずで、だめだった」と苦言を呈した。
共同通信の投開票日当日の出口調査によると、立民支持層の八割は浅野に入れ、飯田に流れた票は8%にとどまった。
4区でも、共産の大内久美子が原発の即時廃炉を前面に掲げて戦った。選挙区の五市町はいずれも東海第二の三十キロ圏内に含まれ、事故に備えた広域避難計画策定を義務付けられている。旧民主・民進系候補が不在の中、日本維新の会の武藤優子も避難計画の実効性を疑問視する姿勢を示した。
だが、自民党の梶山弘志は安倍・菅内閣で原発を所管する経済産業相を務めたにもかかわらず、議論の土俵に乗らないまま、経済政策などをアピールして圧勝。共同通信の出口調査では、立民支持票は梶山、武藤、大内にほぼ三等分されていた。
共産候補の得票は、5区では浅野の六万一千票に対し八千票、4区では武藤をも下回る一万六千票だった。
共産単独で原発反対の受け皿をつくる限界を突き付けられた形だが、共産県委員長の上野高志は「有権者から再稼働ストップの声はかなり聞かれた。福島第一原発の処理水の海洋放出問題で漁業者に支持してもらったりと、党外の方にも選んでもらえた」と前向きに受け止めた。
【東京新聞】