エネルギー新計画、電源構成の死角(2)
21日に公表されたエネルギー基本計画の原案で、経済産業省は2030年度の電源に占める原子力の比率を20~22%とする現行の目標値を維持した。達成には電力会社が原子力規制委員会に申請した全27基の稼働が必要となる見通しだ。東京電力福島第1原発事故から10年を経て再稼働できたのは計10基にとどまる。19年度実績の原発比率は6%にすぎない。目標実現にはほど遠いのが現状だ。
福島第1原発の事故を経験した日本では原子力の推進には国民の理解が欠かせない。実際、基本計画は解決すべき課題として「福島第1原発の着実な廃炉」のほか「核燃料サイクル」や「放射性廃棄物の最終処分」の問題などを列挙した。いずれも道筋は簡単ではない。
使用済み核燃料を再処理した際に生じる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)は、最終処分場選定の最初の段階である文献調査に北海道寿都町などが応募したばかりだ。商用原発で生じる放射性廃棄物の処分場も決まっていない。
総事業費14兆円に上る青森県の核燃料サイクル関連施設は20年以上も完成延期を繰り返している。
国が旗を振っても再稼働が進まない事情も露呈している。エネルギー基本計画の原子力政策への影響は、事故後の10年でかなり限定的なものになったからだ。どういう意味か。経産省から原子力安全・保安院が分離され原子力規制委員会が発足し、原発稼働を巡る最大の関門は、安全審査を担う規制委になった。
経産省が稼働が必要と考えてもその通りにいくか見通せないのは、原発が立地する自治体の判断の重要度が高まっていることもある。原発事故の教訓を踏まえて避難計画も強化され、立地自治体の住民同意のハードルは高くなった。例えば日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)は30キロ圏内に約100万人が居住する。規制委の審査は合格したが、その後避難計画策定が難航し、再稼働のめどは立たない。
30年度原発比率2割達成のカギを握る東電柏崎刈羽原発(新潟県)=共同
各地の地裁による原発の停止命令も相次いだ。関西電力や四国電力はそのたびに原子炉停止を余儀なくされた。国が野心的な目標を盛り込んでも実効性が伴わないのが現実だ。
それでも脱炭素電源として原発の重要性は世界で高まっている。国が掲げる2030年度に温暖化ガス排出量を13年度比で46%削減するという目標は原子力抜きでは実現できない。
準国産電源である再生可能エネルギーを、原子力と組み合わせれば日本のエネルギー自給率は大きく改善する。脱炭素で世界的に逆風となる化石燃料の輸入に頼る構造は安全保障上のリスクを高める。
政府は今回、「リプレース」と呼ばれる原発の建て替えを盛り込むことを見送った。経産省幹部は「東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)でテロ対策などの核物質防護に不備があった問題がエネルギー基本計画の策定の議論のさなかに起こったことが打撃になった」と話す。
欧米諸国は建て替えに向けて小型炉など新型の原発の技術開発にも注力している。米国は小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる安全性を高め、工期も大幅に短縮できる新型原発の商用化を目前にまでこぎ着けている。エネルギー基本計画は改めて新型原発の研究開発方針は明記した。日本も信頼を回復しながら、1基でも多く再稼働にこぎつけて再エネと原子力の両立を図ることが重要だ。(気候変動エディター 塙和也)
【日本経済新聞】