東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」を2023年春から海洋放出する政府方針が決まり、今夏にも具体的な実施計画がまとまる見通しだ。国内の原子力施設では廃水を「沿岸」か「沖合」から放出してきた実績があり、この2案が軸になるとみられる。だが、漁業者の反発は根強く、理解をどう広げていくかが重要になる。
処理水は、様々な放射性物質を含む汚染水を特殊な装置で浄化し、現在の技術では除去できないトリチウム以外を排出基準未満にしたもので、毎日140トンのペースで増え続けている。
処理水の貯蔵タンクが原発敷地を圧迫し、廃炉作業の支障になりかねないとして政府は4月、海洋放出の方針を決めた。トリチウム濃度を世界保健機関(WHO)の飲料水基準の約7分の1に薄めて流す計画だ。
ほかの原子力施設でも、トリチウムを含む廃水は日常的に生じる。放出方法として、国内の多くの原発で採用されているのは沿岸から直接流す方法だ。事故前の福島第一原発もこの方法で放出していたため、既存施設が使える長所がある。
もう一つは、海底の配管で沖合に送る方法で、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県)では海流に乗って薄まりやすい3キロ・メートル沖から放出。北陸電力志賀原発(石川県)も環境保護を目的に、海岸の工事を伴う沿岸放出ではなく、約500メートル離れた沖合に流す方法を採用している。
福島県では、沿岸、沖合とも年間通して海流が確認されており、どちらの方法でも速やかに薄まるとされる。日本原子力研究開発機構システム計算科学センターの町田昌彦副センター長(計算科学)も「放出後は希釈・拡散が自然に進み、局所的に滞留することはないとみられる」と話す。
だが、漁業者は反対の姿勢を崩していない。福島県沖では4月、本格操業に向けて漁獲量を増やす「移行操業」が始まったばかりだ。全国漁業協同組合連合会は6月、海洋放出方針に対し、「到底容認できるものではない」と、断固反対する特別決議を採択した。
一方、放出開始までには原子力規制委員会の審査や放出装置の開発・設置などが必要だ。規制委の 更田豊志ふけたとよし 委員長は「8月中旬までに東電が海洋放出の実施計画をまとめ、審査を申請することが望ましい」とのスケジュール感を示すなど、各種手続きにかけられる時間的猶予は少ない。
具体的な放出方法を決めるに当たっては、東電や政府が漁業者や国民に説明を尽くして理解を広げ、徹底的な風評被害対策を講じることが不可欠となる。【読売新聞】