大型ホールに、ずらりと並んだ約七百の座席。坂東市の市民音楽ホール「ベルフォーレ」は、日本原子力発電東海第二原発で深刻な事故が起きた際、六十キロ以上離れた水戸市からの避難者を受け入れる避難所として使われる。
二〇一八年度時点で受け入れ面積は六千八百平方メートル、定員を三千四百人としていた。だが、坂東市が昨年十一月、再算定したところ、面積と定員でそれぞれ八分の一程度しか受け入れられないことが分かった。
理由は、ホールの座席部分や石畳が敷かれたアトリウムなど、人が生活する場としては不適切な部分を含めていたからだった。座席では、疲れ切った避難者が横たわることさえもできない。なぜこのような事態になったのか。坂東市の担当者は「当時の資料が残っておらず、原因は分からない」と話す。
■廊下で生活
東海第二から三十キロ圏内にある十四市町村の約九十四万人は、県内外の百三十一市町村に避難することになっている。県は、それぞれの自治体の避難所で九十四万人が受け入れられるとしていた。
だが、県が県議会の指摘を受け精査すると、坂東市のように避難スペースがずさんに算定されたケースが県内の避難先で判明。水戸、ひたちなか、那珂市と茨城町、東海村の住民の避難先の避難所で、廊下などが生活するスペースに含まれており、受け入れ可能な人数が計約一万八千人分、過大に見積もられていた。
つまり、命からがら避難してみたら避難所のスペースがなく、一万八千人が路頭に迷う恐れがあった。
県は、避難先の市町村に「居住スペースで一人当たり二平方メートル」を確保するよう求めたが、解釈の行き違いがあったのか、市町村側が生活できるスペースではなく、トイレや倉庫なども含めた延べ床に近い面積で報告していたとみられる。
坂東市などは、新たに避難住民を受け入れられる施設を見つけだした。県原子力安全対策課の担当者は「避難所の見直しをして、不足はなくなる見通しだ」と強調。大井川和彦知事は四月九日の定例会見で「県が避難所の図面を基に、各市町村からヒアリングをすることで問題の解消を図っていく」と沈静化に懸命だ。
■基本的要素
ただ、誤った算定は県内にとどまらない。本紙が、避難先の埼玉、千葉、栃木、群馬、福島の五県に問い合わせたところ、少なくとも埼玉県と群馬県が避難所として使えないスペースを含めて計算していたケースがあったことを認めた。
群馬県によると、水戸市の避難先になっている八市町のうち六市町で、避難スペースの全部もしくは一部が延べ床面積で計算されていた。水戸市と六市町が現在、見直しを進めているという。
また、千葉県と栃木県は避難元と避難先の各自治体同士で、不適切なスペースが含まれていないか確認している最中だとした。
一方で、福島県は「過大な算定はない」と言い切る。「(福島県内の)各市町村には居住スペースで算定するように通知を出している」という理由だが、埼玉県では同様に出していたにもかかわらず、誤った算定方法が採られた。福島県の担当者は「通知通りに算定していると認識しているので、県としては調査はしない」と話す。
避難所の確保は、避難計画の基本的な要素の一つ。それも整えきれないのは、県や市町村が本気で計画を策定しようとしているのか疑念さえ生じさせる。【東京新聞】