10年前に世界最悪レベルの原発事故を起こした東京電力は、通常の民間企業では工面できない事故処理費用を背負い、実質的に国有化されて存続した。政府が、東電に福島第一原発の廃炉と、被災者への賠償を貫徹させるためだ。ところが柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を軸とした経営再建計画は、実現できるか全く見通せない。事故収束作業と同じく迷走が続く。
◆費用ひねり出すため「未経験の利益」想定
福島第一原発の事故処理で、政府は約21兆5000億円かかると試算している。内訳は廃炉に8兆円、賠償に7兆9000億円、除染に4兆円、除染で出た汚染土を一時的に保管する中間貯蔵施設に1兆6000億円だ。
東電は廃炉と除染の全額、賠償の半額の計約16兆円を負担する。除染と賠償費用は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)から政府が発行する国債を原資にした資金の交付を受けている。中間貯蔵は国が全額を、賠償は残り半額を電力各社が電気料金に上乗せして負担している。
東電と政府が「廃炉を完了させる」としている今後30年間で、東電が負担金を捻出するには、経常利益を2026年度までは年平均3000億円超、27年度以降は年平均で4500億円を確保する必要がある。
20年3月期の経常利益は2640億円。東電によると、記録をさかのぼれる1994年度以降、最高値は4412億円(06年度)で、目標の4500億円を上回ったことはない。電力自由化で競争が激しくなる中、未経験の利益水準を27年度以降、毎年続けなければならない。
原賠機構が東電に交付する除染費用は、保有する東電株を将来1株1500円で売って回収する計画。東電の株価は低迷しており、370円(3月23日の終値)にとどまる。
事故処理費用は総額80兆円を超えるとの民間シンクタンクの試算もある。東電と政府の計画は、絵に描いた餅になりかねない。
◆ずさんさ露呈 頼りの柏崎刈羽原発は再稼働「凍結」
東電が経営再建の切り札とするのは、柏崎刈羽原発の再稼働だ。1基の稼働で約1000億円のコスト削減を見込む。だが今年1月以降、テロ対策設備の管理や運用で不祥事が次々と発覚した。原子力規制委員会は「最も深刻な事態」とし、原子炉起動に関する審査をストップ。事実上の再稼働「凍結」宣言だ。
規制委は柏崎刈羽の新規制基準の審査で、東電が再稼働の管理手順を定めた「保安規定」に安全最優先や社長の責任などを明記させた。これにより、福島事故の当事者である東電に「原発の運転資格あり」とゴーサインを出している。
この約束を揺るがす事態が続く。規制委の更田豊志委員長は当初「テロ対策は保安規定と別問題」と話していたが、今後の検査結果次第では「保安規定の見直しの必要がある」と厳しい姿勢に。その場合、保安規定の審査をやり直すため、再稼働はさらに遠のく。
東電の小早川智明社長は3月18日の記者会見で、テロ対策の不備について「福島の事故の反省と教訓を生かせていなかった。おごりや過信がなかったか、究明したい」と釈明。津波対策を怠り重要設備の浸水を防げなかった企業体質は、到底変わったとはいえない。【東京新聞】