東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所でテロ対策に不備があったとして、原子力規制委員会は東京電力に核燃料の移動を禁止するなどの是正措置を命じる行政処分を行う方針を決めました。
処分が正式に決定したあと、改善されたと判断されるまでは再稼働ができない状態が続くことになります。
新潟県にある柏崎刈羽原発では去年3月以降、テロリストなどの侵入を検知する複数の設備が壊れ、その後の対策も十分機能していなかったことが明らかになったほか、去年9月には社員が中央制御室に不正に入室する問題も起き、原子力規制委員会はテロ対策に大きな問題があるとして、24日に行政処分について検討が行われました。
この中で更田委員長は、テロの対象ともなる核燃料を移動させないことが、現状では核物質の防護につながるなどとして原子炉に核燃料を入れたり、新しい燃料を運び込んだりといった核燃料の移動を禁止する是正命令を提案しました。
これについて委員からは「いまは応急措置が取られているだけで、万全な体制とは言えず、核燃料の移動禁止などは必要。問題の根は深い」などの意見が出され、規制委員会としてこの処分案を承認しました。
規制委員会では今後、内容を詰めて東京電力に処分案を示し、反論がないか意見を聞いたうえで正式に是正措置の行政処分が決まることになります。
処分が正式に決定したあと、改善されたと判断されるまでは柏崎刈羽原発は再稼働ができない状態が続くことになります。
是正措置の処分は8年前、福井県にある研究用の原子炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構に出されたことがありますが、一般の原発を運営する電力会社に出されるのは福島第一原発事故のあとに今の規制委員会が発足してから初めてとなります。
東京電力は当初、ことし6月には営業運転に入れるとしていた7号機の再稼働の工程を2月に見直し未定としています。
原子力規制委 更田委員長「東電の核物質防護への姿勢に懸念」
原子力規制委員会の更田豊志委員長は、会合のあとの会見で「柏崎刈羽原発でテロ対策などの核物質防護が劣化している可能性を否定できないから命令を出すことにした。機器などのハード面は回復しているが、いま問われているのは東京電力の核物質防護そのものへの姿勢で懸念が消えておらず、少なくとも柏崎刈羽原発では、核燃料の移動をする資格がない疑いがあると思っている。原子力規制委員会の発足後、検査で見つかった事例の中でいちばん重いと言っていいと思う」と厳しい見方を示しました。
そのうえで、今後については「この事案を重大だと思っているからこそ、詳細や背景など、いま明らかにできることは明らかにする必要があり、東京電力にはしっかりした分析を望みたいし、私たちも拙速な判断は避け、しっかりした検査を加えていきたい」と述べ、東京電力による原因分析と、その後の検査に1年以上かかるとする見通しを改めて示しました。
「社員が他人のIDカードで制御室に不正入室」も
この問題は、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原子力発電所で去年3月以降、テロリストなどの侵入者を検知する設備が複数壊れ、東京電力がとった代替措置の対策も十分に機能していなかったものです。
東京電力は、これについてテロ対策に関わる設備なため詳細は明かせないとしたうえで、合わせて16の検知設備で故障を確認し、代替措置などをとったものの10の検知設備で不十分だとの指摘を規制委員会から受けたと説明しています。
原子力規制委員会は長期間、不正な侵入を許す状態になっていたとして、核物質防護などに関わる4段階評価の中で最も深刻なレベルにあたるとする評価を確定しています。
また、テロ対策を巡っては去年9月に社員が別の社員のIDカードを無断で使って中央制御室に不正に入室したこともことしに入って明らかになりました。
中央制御室は原発をコントロールする重要なエリアで、規制委員会は、警備や管理の体制に問題があるとして原因究明と再発防止策を東京電力に求めていました。
東京電力「適切に対応していく」
東京電力は「正式に当社への通知をいただいたのち、その内容を確認の上、適切に対応してまいります。今後、根本的な原因分析およびその改善措置活動に対する検討を進めるとともに、追加検査などに真摯(しんし)に対応してまいります」とコメントしています。
自民 下村政調会長「原発の安全性そのものとは別の次元の話」
自民党の下村政務調査会長は、記者会見で「新潟県民の方々にとって、許しがたい、ずさんな対応であり、原子力規制委員会の判断は、県民の感覚からすれば当然だ」と述べました。
一方、下村氏は、各地の原子力発電所の再稼働について認識を問われたのに対し「今回は、テロ対策が十分でなかったという問題であり、原発の安全性そのものとは別の次元の話だ。2050年までの『カーボンニュートラル』の実現を考えた場合、地域の理解が得られ、世界でいちばん厳しい条件をクリアした原発は再稼働を考えざるをえないというのが、今の日本の状況だ」と述べました。
公明 竹内政務調査会長「是正されないかぎり再稼働は難しい」
公明党の竹内政務調査会長は、記者会見で「あってはならないことで、是正命令を出すのは当然だ。しっかりと是正されないかぎりは、再稼働は難しいということを重ねて申し上げておきたい」と述べました。
専門家「運営管理全般でずっと穴が空いている可能性否定できず」
旧原子力安全・保安院で検査を担当するなど、原発の安全性に詳しい政策研究大学院大学の根井寿規教授は「核燃料物質の移動を禁止する措置というのは、核物質防護のリスクを上げないということだ。設備の復旧などが行われていても、それが安定的に続くか保証がない状態だと、リスクを上げないための措置を命ずる必要がある。この措置の結果、柏崎刈羽原発の再稼働が当面できなくなるのは当然のことだと思う」と述べ、24日の原子力規制委員会の処分案の内容は妥当だとしました。
そのうえで根井教授は「今回の事案は、難しい管理が要求されていると思えない。それができていないということは、原子力発電所の運営管理全般にわたって、ずっと穴が空いている可能性が否定できないのではないか」と指摘し、設備の復旧だけでなく原因や背景についての根本的な分析が重要になると述べました。
加藤官房長官「抜本的な対策 講じていくことが重要」
加藤官房長官は、午後の記者会見で「核物質防護の確保は、原子力事業者の基本であり、原子力規制委員会による厳しい判断がなされたことは大変遺憾で、深刻に受け止めている。今後、原子炉等規制法に基づき、原子力規制委員会による検査などが実施されると承知しているが、東京電力は、検査に真摯に対応するとともに、核物質防護を含めた安全確保に対する組織的な管理について、抜本的な対策を講じていくことが重要だ」と述べました。【NHK】