九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の運転差し止めや、設置許可取り消しを市民団体が求めた二つの訴訟の判決で、佐賀地裁は12日、いずれも市民団体の請求を退けた。達野ゆき裁判長は、最大の争点だった、原発で想定される最大規模の地震の揺れ「基準地震動」の妥当性について、原子力規制委員会の審査や判断の過程に「看過しがたい過誤、欠落は認められない」と判断した。原告側は控訴する方針。
被告は運転差し止めが九電、設置許可取り消しが国。2020年12月の大阪地裁判決は関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の設置許可を取り消しており、同様に基準地震動の妥当性が争われた今回の訴訟も注目されたが、司法判断は分かれた。
原告側は規制委の内規「審査ガイド」にある、「(計算式のもつ)ばらつきも考慮されている必要がある」という一文に着目。九電が基準地震動の策定に用いた計算式は、過去の地震データの平均値に基づくもので、ガイドに従えば平均値を大きく上回る規模の地震も考慮する必要があると主張。ばらつきを考慮して計算し直せば九電が算定した最大の基準地震動を上回るとして、過小評価されていると訴えていた。
大飯原発の設置許可を取り消した大阪地裁判決は、ばらつきを考慮して、地震規模を上乗せして計算する必要があったのに、規制委などは「何ら検討しなかった」と指摘していた。これに対し、佐賀地裁判決は「ばらつきも考慮する」という一文は計算式を用いる際の留意点にすぎず、基準地震動を策定する際に平均値を上回る地震を考慮することまで求めているわけではないと結論付けた。
また原告側は、玄海原発から約130キロ離れた阿蘇カルデラ(熊本県)は破局的噴火の恐れがあり、原発に火砕流が到達する可能性があると訴えたが、判決は玄海原発の運転期間中に「破局的噴火が発生する可能性があることを具体的かつ合理的に指摘する専門的知見があると認めるに足りる根拠はない」と指摘。「規制委の判断は相応の根拠に基づき、不合理ではない」として退けた。
判決について、規制委は「新規制基準により、厳格な審査をしたことが認められた結果」とコメント。九電は「玄海原発の安全性が確保されているとの九電の主張が認められた妥当な結果。おおむね九電と国の主張が認められた」としている。
原告団長「あきらめるわけにはいかない」
「原発事故の犠牲を何ら教訓とせず、事故後につくられた安全基準さえ守っていないことを許す、極めて不当な判決だ」。石丸初美原告団長(69)は判決後の記者会見で声を詰まらせながら声明文を読み上げた。
くしくも東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年の節目で迎えた判決。弁護団も原発事故の教訓が忘れ去られていると非難を重ね、冠木(かぶき)克彦弁護士は「原発回帰への傾向があると感じる」、武村二三夫弁護士は「市民の安全が念頭にあるなら、絶対にこのような判決にはならないはずだ」と憤りをあらわにした。
原告の市民団体「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」が九州電力を相手取り、玄海原発3、4号機の運転差し止めを求めて提訴したのは福島原発事故から約9カ月後。その後、国の設置許可取り消しを求める訴えも起こした。この間には運転差し止めを求める仮処分申請なども繰り返したが、司法の壁にはね返されてきた。
長期にわたる法廷闘争の末、この日、九電と国を相手取った二つの裁判でも敗れたが、石丸さんは「子どもたちに核のツケを押しつけてしまう。あきらめるわけにはいかない」と述べ、控訴する方針を明らかにした。
今回の訴訟では、関西電力大飯原発3、4号機の設置許可を取り消した訴訟と同じ弁護士が原告側につき、「基準地震動」の妥当性を巡って大飯原発と同じ主張をしていた。司法判断が割れたことについて、冠木弁護士は「形式的でひどい判決だ」と悔しさをにじませた。原告が着目した「審査ガイド」にある「ばらつきも考慮する」との一文は、福島原発事故後に新たに加えられたものだ。武村弁護士は「事故は絶対に起こしてはならないと基準を厳しくしたのに国は自ら作った基準を無視している。それを指摘するのが司法の役割のはずだ」と批判した。
【毎日新聞】