東京電力福島第一原発事故から10年を迎えるのを前に、当時の事故対応の最高責任者で、現在は「脱原発」に向けた発信を続ける菅かん直人元首相(立憲民主党)が本紙のインタビューに応じた。菅義偉首相が掲げる「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」を原発復権につなげようとする自民党の動きを警戒するとともに、菅すが政権の新型コロナウイルス対応にも疑問を呈した。
◆「カーボンニュートラル」は賛成
―福島の事故後、民主党政権は原子力行政の見直しを進めた。
「特に、当時の野党自民党も賛成して独立性の高い原子力規制委員会が設置されたことは非常に大きな転換だった。規制機関を推進官庁の経済産業省から切り離し、(職員を推進官庁に戻さない)ノーリターンルールもつくった。原子力ムラは『規制委が再稼働を止めている』と攻撃するが、超党派で成立した経緯があり、菅すが首相も安倍晋三前首相も規制委の判断そのものを批判したことはないと思う。その一線は崩れていない」
―菅すが政権の「カーボンニュートラル」をどう見る。
「カーボンニュートラルそのものには大賛成だが、それを口実に原発に戻ろうとするのは全くの間違いだ。原発は経済的にも使用済み核燃料の問題でも行き詰まり、既に勝負はついている。原子力ムラの重要なポジションにいた安倍氏と違い、あまりそういう雰囲気を感じない菅すが首相に多少は期待したいが、自民党全体の議論を見ると明らかに原発の復権を狙っている」
◆「最悪のシナリオ」を想定して対応を
―原発事故の危機とは異なるかもしれないが、菅すが首相は今、コロナ禍という緊急事態に直面している。
「菅すが政権の危機管理能力は非常に疑問だ。私の政権では、福島第一原発の250キロ圏に避難が必要になるという『最悪のシナリオ』を原子力委員長に出してもらい、それを避けるために何をすれば良いかと考えた。菅すが首相は最悪のシナリオを想定せず、感染拡大防止と『Go To キャンペーン』という矛盾することをやっている。だから両方とも効果がない。危機の拡大を封じ込め、その上で生じた損害は財政で賄うというメリハリをつけるべきだ」
―ご自身は再生可能エネルギーの普及にも取り組んでいる。
「私は(農地の上に太陽光パネルを設置する)営農型太陽光発電を有望視している。耕作放棄地を農地として復活させ、若い人を農村に呼び戻すこともでき、一石二鳥だ。原発のようにイデオロギーが絡まないので、超党派で推進できる可能性が高い。自民党の中堅・若手には原子力ムラとしがらみがなく、合理的に判断できる議員も増えてきた。脱原発は左翼だとか、反資本主義だとか、もうそういう時代ではない」
かん・なおと 衆院議員(東京18区、13期)、立憲民主党最高顧問。厚相や財務相などを経て、2010年6月~11年9月に首相。在任中に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の対応に当たった。近著に「原発事故 10年目の真実 始動した再エネ水素社会」
【東京新聞】