国内にある原発の老朽化が進んでいる。2030年までに新たに11基の原発が運転開始から40年を迎える。原発の運転期間は国内では原則40年だが、安全性が確認されれば最大20年の運転延長が認められる。11月には関西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)について、同町の議会が運転期間が40年を超える原発として全国で初めて再稼働に同意した。運転期間の延長は安全性を保ちつつ慎重な運用が求められる。
原発の運転期間は11年の東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえた12年の原子炉等規制法の改正で定められた。事故前は法律に原発の寿命について明確な規定はなかった。運転を始めてから40年たった場合は原則廃炉としたものの、電力会社が希望すれば安全性を評価した上で原子力規制委員会に延長を申請する例外を設けた。
申請にあたって電力会社は、超音波を使った検査で原発の心臓部である金属製の圧力容器やその外側の格納容器のコンクリートなどの状態を調べる。そのうえで、60年運転しても設備の健全性に問題がないかどうかを評価し、規制委の審査を受ける。
もっとも重要とされるのが取り換えられない圧力容器の状態だ。核反応で発生した中性子線という放射線が当たり「中性子照射脆化(ぜいか)」と呼ばれる現象が起きて、圧力容器が劣化するためだ。建設時に入れておいた圧力容器と同じ金属の試験片を取り出して、劣化の具合を調べる。配管やケーブル、機器類で劣化が進んだものは新しいものと交換する。規制委が問題ないと判断して、審査に合格すれば最大20年の延長が認められる。
12年9月に発足した規制委は当初、「延長は相当困難だろう」(当時の田中俊一委員長)としていた。福島事故後に運転開始40年が過ぎた原発では、九州電力玄海1(佐賀県玄海町)など約10基の廃炉が決まった。
一方、関西電力の高浜1、2など4基は、規制委が運転延長を認めた。高浜1、2は11月25日に地元の高浜町議会が再稼働に同意し、今後、知事などの同意や安全対策工事が終われば再稼働できる。ほかの3基は地元同意の手続きはこれからだ。
電力会社が延長を申請した原発がすべて審査に合格していることについて、規制委の更田豊志委員長は「私たちから見て難しそうな原発はそもそも申請がされていない」と話す。30年までに11基、40年までに13基が新たに運転期間が40年を迎える。電力会社は設備の健全性や経済性を踏まえて、廃炉にするか運転を延長するかを選ぶ。
ただ、政府のエネルギー基本計画は事実上、多くの原発が運転延長することを前提としている。30年度の電源構成に占める原発の比率を20~22%としており、30基程度の稼働が必要とされる。建設中の2基を含めて現在35基ある原発が9割近く稼働するのが前提で、新設が見込めない現状では運転期間の延長が必要になる。
菅義偉首相が打ち出した50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標に向けても、運転中に二酸化炭素を出さない原発の運転期間が課題となる。運転期間を延長して60年間運転できたとしても、新規建設がなければ50年には原発の数は20基を下回る。
電力業界には60年を超えても運転を認めてもらいたいとの期待もある。40年間という運転期間は福島事故後の混乱の中で世論などに配慮し政治的に決めた面もある。規制委による厳しい安全審査が長期化している影響で、10年近く止まっている原発もある。停止期間も老朽化は進むが、放射線や熱の影響がほぼないため運転時より負担は小さい。
規制委の更田委員長も19年に国会で「圧力容器の照射脆化は、停止中はほとんど無視できる」と答弁したことがある。さらに記者会見では「現在の制度は立法府が幅広い議論で決めた。仮に法改正されたら、行政組織は法律に従う」としている。電気事業連合会は「運転期間は科学的、技術的な観点から個々のプラントごとに判断されることが望ましい」との立場だ。米国では19年に80年間の運転が初めて認められた。
原発の老朽化に詳しい東京大学の関村直人教授は「日本は自然災害のリスクが相対的に大きく米国とは単純に比較できない。最新の安全対策や設備に比べて設計自体が旧式になってしまうという問題もある」と慎重な対応を求める。4日に大阪地裁が関西電力大飯3、4号機(福井県おおい町)の設置許可の取り消しを命じるなど、原発の安全性には司法の場でも厳しい目が注がれている。地震などの自然災害リスクが争点となっているが、今後は老朽化への対応も議論となる可能性がある。
【日本経済新聞】