東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所が立地する新潟県柏崎市と刈羽村で15日、任期満了に伴う市長・村長選の投開票があり、ともに再稼働を容認する現職が当選した。住民の中には安全性への懸念から再稼働に反対する声もあるが、原発の経済効果への期待が大勢を占めた。
再選を果たして万歳三唱をする柏崎市の桜井雅浩市長(中央、15日、新潟県柏崎市)
「事故を起こしてもなお原発に頼らざるを得ない状況は、なんとも皮肉なものだと思う」。再選翌日の16日、柏崎市の桜井雅浩市長は原発に対する思いをこう語った。安全性の観点から7基すべての再稼働には反対だが「地球環境や温暖化対策の観点から、限定的な原発の利用は必要だ」と訴え、選挙戦を戦った。
桜井市長は今回の選挙で、原発反対派の相手候補の3倍近い得票で圧勝した。選挙結果を受け桜井市長は「原発に対する私の考えに市民から賛同を得たと受け取っている」と自信を見せる。今後、市議会の意見なども踏まえ再稼働の是非を判断する考えだ。東電には廃炉計画の明確化などを求める。
6期目の当選となった刈羽村の品田宏夫村長も「原発は日本のエネルギー政策に重要な存在」と強調する。7号機の国の審査が終了した今、いつ東電から再稼働の是非を問われても「いいですよと即答する」という。容認の姿勢は桜井市長よりさらに鮮明だ。
政府は2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げた。太陽光や風力など再生可能エネルギーの主力電源化を進めながら、原発も重要なエネルギー源と位置付ける。梶山弘志経済産業相は柏崎刈羽原発について「避難計画の策定などできる限り支援していきたい」とし、再稼働を後押ししていく意向を示している。
立地自治体にとっては、地域経済の活性化や財政面から原発は簡単に手放せない存在だ。11日には宮城県が東北電力女川原発2号機の再稼働に同意を表明した。女川原発の地元経済界も再稼働に伴う雇用創出や経済活性化に期待を寄せる。
柏崎市の場合、原発の稼働停止で東電からの税収が落ち込み、20年度の原発関連の財源は1995年度のピーク時からほぼ半減した。足元では新型コロナウイルスによる経済衰退も懸念されている。安全面の不安はあるものの、再稼働による東電からの税収増や市内経済の活性化に期待する向きは強い。
東電も柏崎刈羽原発の再稼働に向けた準備を着々と進めつつある。10月末には原子力規制委員会が保安規定の変更を認可し、7号機の国の審査は終了した。年内には安全対策工事が終わり、21年4月には原子炉を起動する前の検査も完了予定だ。21年6月にも、7号機は技術的に使用可能な状態となる。
東電は再稼働に向け、柏崎市、刈羽村、新潟県の同意が必要との立場をとっている。新潟県は避難方法や安全性などに関する独自の「3つの検証」を進めている。花角英世知事はこの検証が終わらない限り再稼働に関する議論はしない姿勢を一貫して示してきた。
このうち、福島第1原発の事故原因を検証してきた技術委員会は10月、花角知事に検証結果をまとめた報告書を提出した。残り2つの検証も、とりまとめに向けて議論が進んでいる。柏崎市と刈羽村で原発容認の現職首長が当選したことで、再稼働は現実味を増している。県が再稼働の議論と正面から向き合うタイミングは確実に近付いている。
【日本経済新聞】