関西電力の金品受領問題が発覚してから26日で1年。社外取締役を中心とした経営監視の強化や工事発注のルール整備などの再発防止策に取り組むが、まだようやく動き出したところだ。一方、足元では老朽原発の再稼働をはじめとした事業面の課題を抱え、難しいかじ取りを迫られている。
「2年以内に何らかの結果を出したい」。新会長に就いた榊原定征(さだゆき)・前経団連会長は、金品受領問題の原因となったガバナンス(企業統治)体制やコンプライアンス(法令や社会規範の順守)意識の改革に本腰を入れる考えを強調する。
金品受領や役員への報酬補塡(ほてん)といった問題では、専門家らによる調査を通じ、社外取締役が情報に接する機会が少なく「蚊帳の外」にされていた実態が判明。チェック機能が働いていなかったことが指摘された。
関電は再発防止策の一つとして、社外取締役の権限が強い「指名委員会等設置会社」への移行を実施。6月からの新体制で取締役13人のうち8人を榊原氏ら社外が占めることになった。
専門の事務局「取締役会室」も新設し、毎月定例の取締役会の前には半日かけて社外取締役に事業などについて説明。納得いくようにメールでもやりとりできる体制にした。担当者は「なるべく本音で意見してもらえるように事前の説明を尽くしている」と話す。
取締役会の議題も榊原氏を交えて事前に検討。経営幹部による会議も社外取締役がオンラインで傍聴したり、後から議事録を見たりできるようにした。
ただ、新たな仕組みは形式を整えたばかり。社外取締役が現場の社員からの情報もくみ上げ、客観的に判断できる体制を充実させるには時間を要しそうだ。
調査では、本社から離れた現場のガバナンスの問題もあった。その中心となった原子力事業本部(福井県美浜町)は「閉鎖的」と指摘され、6月の人事異動でマネジャー以上の管理職のうち1割が他部門からのメンバーに代わった。
工事発注の権限も大半を同本部や発電所から本社の調達本部に移管。さらに社外委員らによる「調達等審査委員会」では、発注の一部を後から精査する。金品受領問題では、福井県高浜町の元助役(故人)側の求めに応じ、関電側が用意した工事を「特命」の発注としていた。再発防止のため、手続きで理由を具体的に示すルールに厳格化した。「競争発注に置き換えられないか、といった委員からの指摘を生かす」(仁井寛喜・調達部長)という。
ただ、こうした対象は関電本体のみで、グループ会社のルールの整備状況はバラバラだ。今年7月には子会社「KANSOテクノス」で元社長の金品受領も明らかになっており、84社に上るグループ会社全体のガバナンス強化も急務だ。
関電がガバナンス改革の成果を「早期に出したい」(幹部)のは、原発事業に影響しかねないためだ。
関電は使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地を「年内をめど」に示すとしてきた。国内で初めて40年を超えて運転する見込みの美浜原発3号機(福井県美浜町)や高浜1号機(同県高浜町)も18日に安全対策工事を終え、来年初めからの再稼働を予定している。
いずれも地元同意が必要で、関電はガバナンス改革を含む再発防止策を進め、地元自治体だけでなく消費者からの信頼回復にもつなげる考えだ。ただ子会社の金品受領や役員報酬補塡の詳細は今夏から新たに発覚しており、一連の問題の全貌(ぜんぼう)ははっきりしていない。
地元から「(再発防止策は)信頼を回復していくにはまだまだ及んでいない」(杉本達治・福井県知事)という声も上がり、ハードルは高いままの状況だ。
不祥事を起こしたほかの企業も再発防止策に取り組んでいる。企業理念を社内に浸透させたり、経営幹部と社員が対話をしたりし、特にコンプライアンス意識の向上に力を入れる。
2017年に金属製品の品質データ改ざんが発覚した神戸製鋼所。これまでは主に工場の品質管理の改善に努めてきたが、今年5月には各部署の若手や中堅社員の案を元に新しいグループ企業理念をつくった。
拡大する写真・図版神戸製鋼所では、企業理念などが載っている小冊子を社員が携帯するようにしている=17日、神戸市中央区
現在は部長職を対象に研修を実施中。各社員が自分の仕事に応じたコンプライアンス上の目標を掲げ、会社に報告する仕組みも導入した。山口貢社長ら幹部は国内外の70拠点で計105回にわたり、社員との直接対話に臨んできたという。
15年に免震ゴムのデータ偽装が明らかになったトーヨータイヤ(旧・東洋ゴム工業)でも、従来は一貫した企業理念が定まっていなかったことが社員へのアンケートで課題として浮上。新たにつくった理念を役職や年代別の研修で学んだり、部署ごとに仕事へ反映させて手法を管理職同士で紹介し合ったりしている。
関電も年末までに新しい企業理念をつくる方針だ。森本孝社長らが社員との意見交換も重ね、8月末までに47回に達したという。社員の意見を再発防止策の拡充にも反映させるとし、今後は榊原氏やコンプライアンス委員会委員長の中村直人弁護士らも参加する予定だ。
関西電力の金品受領問題 関電の元役員らが1987年以降、原発がある福井県高浜町元助役の森山栄治氏(故人)から金品を受け取っていたことが昨年9月に発覚。受領者は計77人、総額3億6千万円相当だった。森山氏は高浜町に勤務時、関電の高浜原発3、4号機の建設に協力。同町を辞めた後、自らの関係企業4社に原発工事などを発注するよう関電役員らに要求。関電側は元助役や関連会社に工事の情報を提供したり、発注をしたりしていた。2018年当時、関電は社内調査をしながら経営陣が結果を非公表にしていた。この問題についての第三者委員会による調査では、東日本大震災後の電気料金値上げに伴ってカットした役員報酬の一部を後から補塡していたことも判明。元役員18人に計約2億6千万円を支払っていた。
関西電力の金品受領問題をめぐる主な動き
2019年
9月 元役員らによる福井県高浜町の元助役(故人)からの金品受領が発覚
20年
3月 第三者委員会が問題の調査結果を公表
経済産業省が関電に業務改善命令。一部役員への報酬補塡も発覚
経産省に業務改善計画を提出
4月 関電社内にコンプライアンス委員会や調達等審査委員会が発足
6月 弁護士による責任調査委員会が旧取締役5人の義務違反を認定。関電が5人を提訴
株主総会で新経営陣の取締役13人が選任され、社外取締役は榊原定征会長ら8人に
7月 子会社の元社長による金品受領が発覚。追加調査を開始
8月 コンプライアンス委員会が役員報酬補塡で新たに旧取締役1人の義務違反を認定
【朝日新聞】