関西電力の金品受領問題は26日で発覚から1年となる。東日本大震災後に減額した役員報酬の補填問題も浮上し、関電が旧経営陣5人に約19億円の損害賠償を求めた訴訟は10月6日に始まる争点整理の手続きで本格化する。旧経営陣側は全面的に争う方針だ。現旧の経営陣ら22人を相手取った株主代表訴訟もあり、前代未聞の不祥事の責任がどこまで問われるのか注目される。
「合理性を欠いた経営判断と言い切ることはできない」。金品受領問題で関電から損害賠償を求められた旧経営陣側は、8月に大阪地裁に提出した答弁書で全面的に争う姿勢を示した。福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(死去)が高浜原子力発電所の運営を妨害する可能性があり、金品の受け取りを断るのは難しかったと強調した。
旧経営陣5人は、森詳介前相談役や八木誠前会長、岩根茂樹前社長ら。関電は6月、第三者委員会の調査などに基づき、金品の受領を取締役会に報告せず、受け取りも拒否しなかったことは取締役としての善管注意義務違反に当たるとして、5人に約19億円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。
旧経営陣側は、森山氏から提供された金品は将来の返却を予定した「預かり保管」だったとも主張。法令やコンプライアンスには違反していないとしている。
関電が起こした訴訟では役員報酬の補填問題も争点となる。関電のコンプライアンス委員会は8月、森氏や八木氏らに善管注意義務違反があったと認定。関電側は補填対象者に「世間的に誤解を生むおそれもある」と説明していたといい、同委員会は「明らかになった場合には非難されることを強く意識していた」と指摘した。最も高額な補填を受ける森氏が自ら主導したと結論づけた。
これに対し、森氏側らは「退任役員に割り当てた委嘱業務の対価」として、報酬の補填には当たらないと反論している。
今回の訴訟は、法廷での第1回口頭弁論の期日は定まっていないが、10月6日に書面で争点を整理する手続きを始めることが決まった。最高裁によると、証人尋問などを行う民事裁判(過払い金訴訟を除く)では第1回口頭弁論から結審まで平均16.4カ月(2018年)かかる。審理は長期化する可能性もある。
一連の問題では株主代表訴訟も6月に提起された。同訴訟は会社法に基づき、株主が会社に代わって役員の責任を追及できる仕組みだ。対象となった22人は関電が損害賠償を求める旧経営陣5人のほか、森本孝社長ら現経営陣も含まれる。請求額は計約92億円で、より広く責任を問う構えだ。
例えば、問題公表前に金品受領を報告した役員研修会に森本氏らが出席していたことを問題視。研修で問題を知りながら取締役会に報告しなかったことが善管注意義務違反にあたるとしている。
企業統治に詳しい久保利英明弁護士は「関電が旧経営陣の責任を問うのは当然だが、そのことと会社の出直しは全く別の問題だ。現経営陣は訴訟と並行して企業風土を変える取り組みを進める必要がある」としている。
■刑事責任追及、補填問題が焦点の見方
関西電力の金品受領問題と役員報酬の補填問題を巡っては、いずれも市民団体が大阪地検に告発状を提出している。地検は情報収集を進め、最終的に刑事責任を問えるかどうか判断するとみられる。役員報酬の補填問題は悪質とみる司法関係者もおり、今後の捜査の焦点となる可能性がある。
市民団体は金品受領問題で八木誠前会長ら12人について会社法違反(特別背任、収賄)などの疑いがあるとした。ただ金品のやりとりの多くで公訴時効が成立し、キーマンの森山栄治氏も亡くなっており、刑事責任を追及するハードルは高い。
役員報酬の補填問題では、会社法違反などの疑いが浮上している。実質的な役員報酬の後払いを株主などに開示しなかったとみれば、金融商品取引法違反罪で起訴された日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告の事件とも構図が似ている。
役員報酬の減額は、電気料金の値上げに伴う対応だったことなどから、ある大阪地検OBは「電力利用者の信頼を裏切る行為で、金品受領よりも悪質な問題だ」と指摘。刑事責任については「退職後に支払われた報酬と業務の関係性が焦点となる」とみている。
▼関西電力の金品受領問題
関電の八木誠前会長や岩根茂樹前社長ら77人が福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(死去)らから総額3億6千万円相当の金品を受領していた。関電の第三者委員会は金品提供が森山氏の関係企業に関電側から工事を発注させ、本人も企業から経済的利益を得る目的だったと認定した。
第三者委の調査では、関電が東日本大震災後の電気料金値上げの際に減額した役員報酬の一部を、退任後に嘱託報酬として支払っていたことも判明した。カットされた計19億4千万円のうち、常務執行役員以上の退任者18人に計約2億6千万円を補填した。既に全額の返還を受けている。
【日本経済新聞】