あれだけの大事故を起こした事業者に再び原発を動かす資格があるのか。東京電力の「適格性」は、福島第一原発事故の反省から生まれた原子力規制委員会の最重要課題の一つだった。柏崎刈羽6、7号機(新潟県)の審査で規制委は、安全最優先の姿勢など基準のないものについても「東電スペシャル」(更田豊志委員長)として異例の要求を重ね、了承に踏み切った。
東電が6、7号機の再稼働を目指して審査を申請したのは2013年9月。事故発生から2年半しか経っていなかった。規制委は他電力と同じように、地震や津波の想定の引き上げや重大事故対策などを技術的に審査。福島第一と同じ沸騰水型(BWR)では最も早く進み、17年夏には新規制基準への適合を認める審査書案がほぼまとまった。
並行して規制委は、小早川智明社長ら経営陣を呼んで企業姿勢をただした。福島第一の汚染水処分の判断を国任せにするような発言もあり、田中俊一委員長(当時)は「(福島第一の)廃炉を主体的にやりきる覚悟を示せなければ、柏崎刈羽を運転する資格はない」などと厳しく批判した。
その結果、廃炉への覚悟やリスク低減の継続的努力など7項目を社長名の文書で回答させ、原子炉等規制法に基づく許認可の一つで、違反すれば運転停止もありうる保安規定に反映すると約束させた。こうして適格性の担保に道をつけ、審査書を正式決定した。
保安規定の審査でも特別態勢をとった。ふつうは規制委員1人がトップとなる審査チームでおこなうが、適格性に限って、5人の委員全員がそろう場で記載内容を逐一確認。原発事故の強制起訴裁判で東電の旧経営陣が展開した無罪主張を引き合いに、事故時に社長の刑事責任を問える体制作りなども追加で求めた。
保安規定が認可されなければ再稼働できない。東電は要求を丸のみするしかなかった。「リスク対応を怠って事故が起きれば、社長の刑事責任や損害賠償責任が認められる」と明記した弁護士の意見書を提出。リスク情報に対応した記録の保存期間を「5年」と説明して規制委側から「大きな失望を感じる」と批判されると、次の会合ですぐに「廃炉まで」に延ばした。【朝日新聞】