中国の原子力発電所の発電容量が建設計画ベースで2030年ごろにも米国を抜き、世界一の原発大国となる見通しだ。稼働中の原発は18年に日本を上回り、米、フランスに次ぐ世界3位になった。先進国では東京電力福島第1原発事故後、新設が難しい。大規模計画を持つ中国、ロシア、インドとの二極化が進む。
8月上旬、国有で原子力発電を担う中国核工業集団は、田湾原発5号機(江蘇省)の送電を始めた。中国として48基目の原発だ。
世界原子力協会によると、20年4月時点で稼働中や建設・計画中の中国の原発の総発電容量は1億870万キロワットだ。米国の1億512万キロワットを超えた。19年4月時点では米国が上回っていたが、9月にスリーマイル島原発1号機の停止などで減った一方、中国は19年に3基が新たに稼働した。
運転中の原発だけをみると1位は約9800万キロワットの米国で、約6200万キロワットの仏が続く。中国は約4500万キロワットの3位だが、11基が建設中で40基超の建設計画がある。米国は廃炉が続き、建設計画も少ない。原発は一般に着工から5年前後で完成する。早ければ30年ごろに米国を抜く可能性がある。
先進国では原発への国民の懸念が強まり、建設が進めにくくなった。日本は福島事故を受けた規制基準の強化や原発の老朽化で廃炉が相次いだ。事故前は動かせる原発が50基を超えたが、24基の廃炉が決まった。もともとあった新設計画は残るものの、議論は進んでいない。
これに対し、中国では福島事故後に約30基が新規稼働した。ロ・印も稼働中の容量と同程度の規模の建設計画を抱える。高速炉や小型炉など次世代原発の開発でも、これら3カ国は研究炉や実証炉の計画が目白押しだ。
中国は国内での建設ラッシュにとどまらない。電力不足に悩む新興・途上国を中心に原発輸出へ営業攻勢をかけている。
中国製の原発はパキスタンで4基が稼働中だ。さらにトルコなどで10基前後が建設・計画中だ。これはロシアなどに次ぐ規模だ。中国が原発を初めて導入したのは約30年前だが、「技術レベルは世界最先端に追いついた」(日本原子力産業協会の中杉秀夫調査役)。
日本も英国やトルコなどへの輸出を目指してきたが建設費上昇などでうまくいっていない。欧米も勢いがない。10年以降に世界で稼働を始めた原発の7割超が中ロ製だ。
エネルギー政策に詳しい日本総合研究所の滝口信一郎シニアスペシャリストは「日米欧の新設が進まない中で中ロに技術が蓄積していけば、両国に依存するリスクが国際的に高まる。特に発展途上国への支配力が高まる」と指摘する。
中ロの台頭は核拡散の懸念も生む。日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史主任研究員は「中ロは日米などに比べ、原発輸出先に求める核兵器転用を防ぐ措置の条件が緩い」と話す。
米原子力エネルギー協会は「中ロの原発輸出は外交政策の中核で、米国は後れを取っている」と危機感を募らせる。巻き返しのため米上院は7月、革新的な原子炉開発の促進などを掲げる「原子力エネルギーリーダーシップ法案」を可決した。米国際開発金融公社も途上国などへの原発輸出の金融支援を解禁した。
こうした競争は原発関連技術の向上を促す半面、輸出先となった国のエネルギー安全保障に影響を及ぼす可能性もある。【日本経済新聞
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