東北電力女川原発2号機(女川町、石巻市)の再稼働の前提となる「地元同意」の手続きが加速している。東北の原発では初めて、原子力規制委員会の審査に合格。住民説明会の開催が進むが、建屋の安全性や重大事故時の広域避難計画に対する懸念は消えない。判断の時期が迫る今も、さまざまな思いが交錯する原発の足元を見た。
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東日本大震災の記憶が残る住民たちには「机上の空論」にしか聞こえなかった。
女川町と石巻市内4カ所で開かれた女川原発の住民説明会では、内閣府が示した広域避難計画(※)に対する不満が噴出した。
自家用車やバスで30キロ圏外に逃げる避難道は、地震や大雨で頻繁に途絶する。離島や半島部は船やヘリコプターの活用も想定するが、震災の津波は港を壊し、ヘリも流した。「計画の作成者に震災を経験した人はいなかったのか」。市内の男性が嘆きをぶつけた。
高齢者や障害者といった要支援者の避難には、より多くの課題がある。利用者の安全を預かる福祉施設などは、計画を補う具体的な対策を迫られる。
原発から南に約11キロ、石巻市鮎川浜の特別養護老人ホーム「おしか清心苑(えん)」は準PAZ内にある。入所者は60人で、多くは介助を必要とする。「元気な人だけが逃げるわけじゃない」。鈴木静江施設長(70)は事故時の対応に思いを巡らせる。
計画では、避難によって健康リスクが高まる人は、輸送態勢が整うまで屋内退避する。施設は放射性物質の侵入を防ぐ対策工事を施し、シェルター化した。入所者の家族や近隣住民を含む計150人が1週間過ごせる備蓄品も用意した。
県は施設ごとの避難計画策定も定めた。清心苑は仙台、岩沼両市の特養ホーム6施設を避難先として確保したが、付き添う職員の体制や細かい移動手段は決まっていない。鈴木施設長は「放射能が漏れないとは言い切れない。対策を一つ一つ積み重ねたい」と緊張感を高める。
石巻市桃生地区の民生委員の女性(68)は、近所に住む独り暮らしのお年寄りが気掛かりで、説明会に参加した。震災では避難を呼び掛けていた民生委員も犠牲になった。市からは自分と家族を優先するように言われているが、いざとなれば放っておけない。
UPZの桃生地区は即時避難の必要がないと知り、少し安心した。ただ、屋内退避時の見守りはできるのか。避難する場合、集合場所までは連れていけるが、その先には付き添えない。
説明会が終わっても不安は消えなかった。「頭をひねって考えた計画なんでしょうけれど」。女性は困惑した表情でつぶやいた。
(※)広域避難計画:内閣府や県などでつくる女川地域原子力防災協議会が「緊急時対応」としてまとめた。原発30キロ圏内の約19万9000人の避難方法や避難先を指定。5キロ圏内を予防的防護措置区域(PAZ)、牡鹿半島南部と離島を「準PAZ」とし、即時避難の対象とした。5~30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)は屋内退避し、空間放射線量の状況に応じて避難する。【河北新報】