茨城県東海村の東海第2原子力発電所の再稼働を巡る住民投票条例案が、県議会で否決された。東日本では3原発4基が原子力規制委員会の審査に合格したが、再稼働の見通しは立っていない。東京電力福島第1原発事故で自治体が再稼働に慎重なうえ、原発を基幹エネルギーと位置づける国が積極的に議論に加わらないことも影響している。
「温暖化対策、コスト、エネルギー安全保障の面で原子力は優れている」。6月18日の茨城県議会の委員会で経済産業省の覚道崇文・資源エネルギー政策統括調整官はこう述べ、再稼働に理解を求めた。
東京から約120キロメートルに位置し「首都圏唯一の原発」と呼ばれる日本原子力発電(原電)の東海第2原発。2018年11月に規制委の審査に合格したが、再稼働に向けた地元同意の取り付けはほぼ停止していた。
5月25日、茨城県内の住民団体が再稼働の是非を巡る住民投票の実施を県知事に求めた。直接請求に必要な有権者総数の1.8倍に相当する約8万7千筆をそろえた。しかし県議会は6月18日の委員会で否決し、23日の本会議でも退けた。「複雑なテーマに対して二者択一で意思表示するのは困難」との理由からだ。
エネルギー政策は国全体の問題でもあり、住民投票のあり方には賛否がある。実際、これまで4都県で再稼働を巡る住民投票の請求があったが、いずれも否決された。ただ住民投票を退けたところで、代わりの手法も定まっていない。
県や県議会は稼働の是非を明確にしておらず、地元同意のプロセスは固まっていない。大井川和彦知事は安全性の検証や避難計画策定が道半ばとし「県民の意見を聞く方法を判断できる段階にない」と繰り返す。立地する東海村の山田修村長も「住民の意向をどのように把握するか模索している」と述べるにとどまる。
東海第2の地元同意手続きには県や東海村に加え、30キロメートル圏内にある水戸市など周辺5市の意向も聞く必要がある。100万人に迫る周辺住民の避難計画も作らなくてはならない。ただ、14市町村のうち計画を策定済みなのは5市町のみ。同原発の安全対策工事は22年末に完了予定だが、大井川知事は計画策定については「もっと時間がかかると思う」との認識だ。
それでも国は自治体任せで、原子力防災を担当する小泉進次郎環境相なども視察に訪れていない。茨城県内の自治体からは「国は本当に稼働させたいのか」などと疑念の声が漏れる。
福島の原発事故後、東電や原発への不信感が強い東日本では、民意の集約の難しさに直面している。規制委の審査に合格した柏崎刈羽原発6、7号機では、新潟県が再稼働判断の前提とする「3つの検証」を進めている最中だ。花角英世知事は「期限を切らずに議論を尽くしてほしい」と強調する。同じく合格した東北電力女川原発2号機は22年度以降の再稼働を目指すが、宮城県の村井嘉浩知事は再稼働について「まずは住民説明会を開き、市町村長や県議会の意見を聴取する」と述べるにとどまる。
原発を基幹電源と位置づける国は、30年時点での電源に占める比率を2割としている。13年の新規制基準導入以降、再稼働したのは西日本の5原発9基だけだ。国が前面に出ないままでは現状との溝は大きくなるばかりだ。【日本経済新聞】