新型コロナウイルスの感染拡大は原子力発電所の運営にも影響を与えている。関西電力は、5月8日から予定していた大飯原発3号機(福井県おおい町)の定期点検を直前になって延期した。政府の緊急事態宣言下に県外から多くの作業員が訪れ、感染リスクが高まるおそれを考慮した。ほかの電力会社では、作業員の感染によって工事が中断した例も。社会、経済活動を支える社会インフラの「発電」にも新型コロナ禍の影響が及んでいる。
作業員の半数が県外
春の大型連休後半を前にした5月1日、関西電力の水田仁原子力事業本部長代理が福井県庁を訪れ、県の野路博之安全環境部長にこう報告した。
「大飯3号機の定期点検について、開始時期を2~3カ月程度延期することとした」
定期検査開始日の1週間前という直前での延期決定は極めて異例だ。
関電によると、大飯3号機の定期検査に従事する作業員は最大1800人。半数の900人が県外から訪れる。さまざまな地域から多数の人がやってくる状況になるため、地元には新型コロナの感染リスクが高まる懸念があった。
また福井県は、県外からの転勤者などについて来県後2週間、自宅待機を求める県民行動指針をまとめており、関電に対し、定期検査に携わる作業員についても指針を守るよう要望していた。
水田氏は、定期検査の延期に至った判断について「県の指針を守れると考えていたが、(地元からの)不安の声や緊急事態宣言の延長を総合的に考えた」と説明した。
徹底対策しているが…
関電は、大飯を含む福井県の3原発の運転や敷地内での工事で新型コロナの感染対策を講じている。
検温は出勤前だけでなく、敷地入り口でも体温をチェックし、建物の出入り口にはサーモグラフィーを設置した。作業時のマスク着用を徹底し、食堂や執務室、中央制御室には飛沫(ひまつ)がかかるのを防止する仕切りを設けた。
通勤に使われるバスも、人数を制限して密集状況を回避。原発の運転員については、ほかの作業員との接触を減らすため専用のバスを運行している。
一方、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)では、テロ対策施設工事にかかわる関係者2人の感染が判明。4月14日から計600人を出勤停止にし、同23日まで工事を中断した。
玄海3、4号機の運転に直接、影響はなかったが、テロ対策施設は、設置が遅れれば原子力規制委員会が運転停止を命じる方針を示した重要施設だ。
新型コロナの感染拡大では、いくら対策を取っても「ゼロリスク」とすることは難しく、電力各社はインフラ施設の安定操業に苦心している。【産経新聞】