東京電力が来年の取り出し開始をめざす福島第一原発の溶け落ちた核燃料「デブリ」。内部の調査や模擬実験などが進み、これまで参考にしてきた米スリーマイル島原発のデブリと性質や様子が大きく異なることがわかってきました。
スリーマイル島原発のデブリ=日本原子力研究開発機構提供
金属成分多く、溶けきらない部材も
2011年3月、炉心を冷やせなくなった福島第一1~3号機では、核燃料が自ら発する熱で融点を超える高温になり、溶け落ちるメルトダウン(炉心溶融)が起きた。それが冷えて固まったものがデブリだ。原子炉圧力容器や格納容器の底部にたまっているとみられるが、強い放射線を放つため、ロボットですら容易に近づけない。
ひとことで「溶け落ちた核燃料」と説明されるが、実際には一緒に溶けた周りの金属などが混ざったものだ。ウラン燃料が詰め込まれた燃料棒はジルコニウム製の被覆管で覆われ、核分裂を止める制御棒はホウ素を含んだステンレスでできている。1~3号機のデブリの総量は800~900トン、うち3分の2が燃料以外と推定されている。
実物を分析できず、正体がよくわからない「未知の物質」を取り出すため、研究者らが数少ない前例として頼りにしてきたのが、1979年に炉心溶融事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原発のデブリだった。だが、ここにきて、その性質が福島第一とは大きく異なる可能性がみえてきた。
手がかりになったのは、18年に東電が撮影した2号機内部の映像だ。そこには、金属が主成分とみられる堆積(たいせき)物や、溶けきらなかった燃料集合体の部材など、TMIのケースからは予想できないような複雑な状態が映し出されていた。デブリを研究する日本原子力研究開発機構の倉田正輝・炉内状況把握ディビジョン長は「最初はTMIのような壊れ方を想定していたが、単純ではなかった」と話す。
模擬実験もとに3タイプに分類
19年には2号機内部のデブリの状態がさらに詳しく撮影された。目立ったのは、金属を多く含む「金属系デブリ」の量と多様さだった。原子力機構は、制御棒を溶かす実験でできた物体と、2号機で撮影されたものの外見が似ていることに着目。金属系デブリを3タイプに分類し、それぞれの組成や性質、リスクなどを推定している。
半溶融の金属系堆積(たいせき)物=日本原子力研究開発機構提供
福島第一原発2号機の格納容器内調査で撮影されたデブリ=東京電力提供
「ストーン状」は、酸化したステンレスやジルコニウムが主成分。砕けやすく、粉状のウランが飛び散るおそれがある。「半溶融の金属系」は内部のジルコニウムが水蒸気と反応して水素を発生させ、火災を起こす可能性がある。「プレート状」はステンレスがホウ素で硬くなり、切り取るのが難しい。
こうした特徴は、「模擬デブリ」による実験でも確かめられている。実験室でウランと金属を混ぜたものに、ホウ素を加えて高温で溶かしたところ、できた物質は非常に硬くなった。
原子力機構の鷲谷(わしや)忠博・廃炉環境国際共同研究センター副センター長は「ホウ化物がどこにどれだけあるかで、取り出しがやっかいだとわかる。福島第一のデブリは非常に不均一。取り出しは非常に難しい」と話す。
溶融後に固まった模擬デブリ=日本原子力研究開発機構提供
問題はデブリの性質の違いだけではない。事故の規模も福島第一の方がずっと大きい。
TMIは事故炉が1基だけで、デブリの量は約130トンと福島の6分の1ほど。それも圧力容器内にとどまった。水を張って放射線を遮ることができ、人が近くで作業しやすかった。それでも、取り出しを終えたのは事故の約11年後だった。
福島第一の取り出しは、国や東電の計画では、まず21年(事故の10年後)に2号機で数グラムから試験的に始め、31年(同20年後)を目標に3号機で本格的な取り出しにかかる。いずれも遠隔操作で、いつ終わるかは示されていない。1号機は溶け方が最も激しいとみられているが、内部の調査が難航し、デブリの存在をまだ確認できていない。
「福島型」の溶融シナリオが浮上
なぜデブリの性質がこれほど異なるのか。同じ炉心溶融事故でも、福島第一とTMIの炉のタイプが異なる影響で、溶け方が違ったからではないか、と倉田さんらはみている。
メルトダウンの過程では、融点の低い金属がまず溶け落ち、圧力容器内に残る水で急冷されていったん水面に沿って板状の層をつくる。そこに核燃料が落ちてきて、燃料の上の表面も冷え固まり、殻のように覆われる。やがて下側の層を壊し、さらに下部に落ちる、とされる。
TMIは加圧水型炉(PWR)で、炉心にある金属の多くを占める制御棒が全体に均等に並ぶ。このため、最初にできる水面に沿った層も均質な金属の板になり、密閉された層の中で燃料が2500度まで上昇。やがて燃料の自重で板が壊れ、十分に溶けた燃料が一気に圧力容器の底部に流れ落ちた。このため、デブリも均一になった。
一方、沸騰水型炉(BWR)の福島第一は、PWRと違って制御棒の断面が十字型になっており、炉心の金属の分布にややムラがある。水面に沿った板状の層にはすき間ができ、そこから入る水蒸気のせいで、核燃料の温度は2200~2300度にとどまる。燃料は溶けきらず、固体が混ざった粘り気のある状態でゆっくりと落下した。このため、デブリは不均一になり、金属の割合も多くなる。落ちた金属と圧力容器の金属が反応し、容器の底に穴が開いたとみられるという。(川田俊男)
2号機で実物を分析
2号機でデブリの試験的な取り出しが始まると、実物の分析ができるようになる。これまでの研究成果と照らし合わせることで、より広範囲のデブリの性質も推定していく。本格的な取り出しに向けて、多様な性質やリスクをふまえた安全対策や装置開発、訓練などにつなげるという。
海水の影響も研究
事故直後に注目されたのは、炉心を冷やすために使った海水の影響だ。海水からとった塩を満たした容器に入れて高温で加熱した模擬デブリには、表面にカルシウムと反応した層ができたという。少し硬くなったが、取り出しへの影響は少なさそうだ。ただ、保管や処分への影響は確かめる必要があるという。【朝日新聞】