内閣府が二十一日に公表した北海道-千葉県の太平洋岸を襲う最大級の津波想定で、東北電力東通(ひがしどおり)原発(青森県東通村)の約十キロ北にある「猿ケ森砂丘」で海抜約二十メートルの津波の痕跡を報告した論文が「水位が高すぎる」と疑問視され、考慮の対象から外されていたことが分かった。専門家からは「砂丘は地形が変わりやすく過去の津波の復元は難しい。高さ二十メートルは否定しきれない」との批判が出ている。
内閣府の想定では、東通村の津波の最大高さは一三・九メートルで、海抜十六メートルの防潮堤がある東通原発は浸水しないとされた。
箕浦幸治東北大名誉教授らが二〇一三年に発表した論文などによると、海岸から約一・五キロ内陸の猿ケ森砂丘で数百年前の津波が残した砂や泥、倒木を確認し、既存の論文などからこの地点の高さを海抜二十メートルと判断。津波がさらに高くに及んだ可能性も指摘した。
東北電は一七年の原子力規制委員会の審査で「誤差がセンチ単位の精密測量では高さは約十一メートル。論文の二十メートルは誤り」と説明。原発で想定する津波は高さ一一・七メートルとした。
東北電によると、海寄りの砂丘は防衛装備庁の敷地で入れず、海面ではなく内陸の水準点を利用して高さを測量した。
内閣府は公表データから想定を作った。集めた二百十一の論文や報告書などのデータのうち、箕浦氏らの論文は「周辺の痕跡と比べて高すぎる」と外した半面、東北電などのデータは考慮された。
内閣府の横田崇政策参与は「詳細は確認していないが、二十メートルを再現しようとすると、より大きな津波になり、他の痕跡との整合性が取れない」と説明。これに対し、ある研究者は「昔の津波の水位を精度よく知るには、もっと詳しく現地の地形などを調べないといけない」と指摘している。
<猿ケ森砂丘> 青森県・下北半島の太平洋岸にある日本最大規模の砂丘。砂に埋もれたヒノキアスナロ(ヒバ)の埋没林が有名。現地には津波の伝承があり、過去に大津波があった可能性が指摘されてきた。砂丘のうち南北約13・5キロ、東西約1キロは、火器や弾薬の試験を行う防衛装備庁下北試験場(13・75平方キロ)が占めている。危険があるため部外者の立ち入りは禁止されている。【東京新聞】