原子力発電所から半径30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)内にある全国の学校2340校のうち、原発事故を想定した避難訓練をしたのは2018年度で50.2%にとどまることが文部科学省の調査で分かった。割合は前回15年度の調査から5.5ポイント低下した。同省は「訓練は義務ではないが、地域のリスクへの備えを着実に進めてほしい」とする。
調査は国公私立の幼稚園、小中高校などを対象に安全確保のための取り組みの状況を調べるもので、15年度まで隔年で実施。18年度は間隔を延ばし3年ぶりに行った。
UPZ内の学校の避難訓練実施率は初調査した13年度は31.9%だった。15年度は55.7%に上昇したが、今回下がった。稼働している原発が少ないことや、11年の東京電力福島第1原発事故の経験の風化などが影響した可能性がある。
実施率を公立校について都道府県別にみると、佐賀98.9%、鹿児島96.2%、愛媛89.0%など再稼働した原発がある県で高い。UPZ内にある学校数が317校と最多の茨城は76.7%、245校で2番目に多い静岡は7.8%で、自治体間の差が大きかった。
隣の島根県に原発があるが、実施率が47.8%だった鳥取県の教育委員会の担当者は「市町村の意識が低い。別の県にあることで遠いと感じるのかもしれない」と話す。
津波による浸水想定区域にある国公私立の学校は5950校で、9割が津波を想定した避難訓練を実施していた。
各学校は教職員の研修や設備点検などについて定めた学校安全計画と危機管理マニュアルの作成が義務付けられている。国公立はほぼ全校が作成済みだが、私立はどちらも9割弱にとどまった。
今回の調査では初めて、弾道ミサイルが発射された場合の対応を聞いた。危機管理マニュアルや学校安全計画に発射時の対応があるとしたのは全体の48.1%。避難訓練をしたり合同訓練に参加したりしたのは13.4%だった。
熱中症への対応も初調査した。18年度にとった新規の対策は「水分補給や休憩、健康管理の徹底」が最も多く、66.1%が実施。「暑さ指数や気象情報を参考にした活動の判断」は44.7%、「エアコンの設置や設置検討」は38.8%、「日よけや扇風機などの設置」は31.9%が挙げた。運動会などの行事の開催時期を変更した学校も9.1%あった。
防犯カメラを設置している学校の割合は58.1%で前回から10.4ポイント上昇した。校内緊急通話システムや防犯センサーも4割が導入していた。
全学校の8割が災害時に子どもが校内に待機することを想定し、物資を備蓄。物品別に見ると救急用品・医薬品が63.2%、飲料水が57.9%、食料が55.3%と5割を超えたのに対し、毛布・寝袋は41.2%、ヘルメット・防災頭巾は35.3%にとどまった。【日本経済新聞】