司法が再び、再稼働を認められた原子力発電所にストップをかけた。広島高裁が四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを認めた仮処分決定は、原発近くの活断層と火山の影響評価について疑義を示した。原発の新規制基準に基づいて再稼働を認めた原子力規制委員会の審査も批判した格好だ。今後運転できない原発が増えれば、国のエネルギー政策にも影響を及ぼす。
原発の安全性については、規制委が2011年の東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえて作った新規制基準に基づいて審査している。事故後に定期検査などで止まった原発は審査に合格しないと再稼働できない。
新規制基準では、敷地周辺にある活断層や南海トラフ地震のような海溝型の巨大地震などによる揺れを想定し、その中で最大の揺れに見舞われても、建物や施設の安全性に影響が出ないことを求めている。
地震のリスクについて広島高裁の決定は、伊方原発の敷地の近くに活断層がある可能性を否定できないと指摘した。
断層から原発の敷地までの距離は2キロメートル以内と想定されるのに、四国電は十分な調査をしないまま原子炉の設置変更許可などを申請したと認定。規制委の判断の過程にも「過誤ないし欠落があったと言わざるをえない」とした。
四国電は周辺海域で海上音波探査を実施し、敷地のすぐ近くには活断層がないことを確認していた。同社の黒川肇一・原子力部長は「不十分な調査で再稼働したわけではない」と反論する。
もう一つは火山のリスクだ。電力会社は新規制基準に基づく指針「火山影響評価ガイド」に沿った対策を求められる。ガイドでは原発から半径160キロメートル圏内にあり、258万年前以降に噴火した火山の影響評価を求めている。
原発の運転期間中に火山が噴火しても、建物の設計などで安全に対応できる場合は立地が認められる。四国電は伊方原発については阿蘇山など複数の火山について影響を及ぼす可能性があるとして評価した。
広島高裁の決定では、阿蘇山が大きな噴火をした際の火山灰などの噴出規模が、四国電の想定の「約3~5倍にのぼる」と指摘し、噴火想定が過小だと判断。これを前提とした規制委の判断を「不合理」と批判した。
伊方原発3号機は17年12月に広島高裁から、阿蘇山での数万年に一度起こる巨大噴火「破局的噴火」のリスクで、運転差し止めを命じられたことがある。火砕流が原発に到達するリスクを指摘し、新規制基準に合格させた規制委の判断を不合理とした。ただ、18年9月の異議審決定で同高裁が一転して運転を認めた。今回の決定では、破局的噴火については「社会通念はリスクを相当程度容認している」ため、立地不適ではないとした。
規制委は今回の決定について「民事でコメントする立場にない。新規制基準に基づいて厳格に審査している」とした。ただし同様の裁判所の判断が続けば、対応を迫られる恐れもある。
梶山弘志経済産業相は17日、「規制委が世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると判断した原発について再稼働を進める」と述べた。
ただちに電力の供給体制に影響がでるわけではないが、四国電にとって痛手だ。伊方1、2号機の廃炉を決めており、司法判断が覆るまで3号機が稼働できない。火力発電の燃料費の増加で月35億円の収支悪化を見込む。3号機は定期検査中で3月下旬の送電開始を予定していた。
火山のリスクを巡って訴訟を抱えるほかの原発への影響も懸念される。九州電力は川内原発(鹿児島県薩摩川内市)と玄海原発(佐賀県玄海町)に阿蘇の噴火リスクがある。住民らの原子炉の設置許可取り消しを求めた提訴や運転差し止めの仮処分申請も相次ぐ。【日本経済新聞】