東京電力福島第一原発の事故をきっかけに見直された学校の放射線教育。しかし、事故から時間がたつにつれ、学校では放射線を学ぶ機運が失われていると懸念する専門家もいます。文部科学省も全国の学校における放射線教育の実態調査を始めました。
2011年の東日本大震災の時に起きた福島第一原発の事故を受けて、文部科学省は子どもたちに放射線の正しい知識を身につけてもらうため中学校の理科におよそ30年ぶりに放射線の授業を復活させたり全国の学校に副読本を配ったりして放射線教育に力を入れました。
ところが、事故から9年近くが経過し、この副読本の使われ方について疑問の声が相次ぐようになり、文部科学省は全国のおよそ4500校を対象に授業で放射線に関する内容を扱っているかや副読本の活用状況などについて実態調査を始めました。
文部科学省は来年3月をめどに調査結果をまとめる方針です。
放射線教育に詳しい福島大学の山口克彦教授は「原子力発電所の事故を受けて、放射線のことを知ろうという機運が全国の学校で高まったが、時間がたつ中で風化している事実があると思う。放射線の知識は、お互いが共有していないと理解が進まないので、福島の子どもたちだけでなく、全国で学び続けることが大事だ」と指摘しています。
岐路に立つ放射線教育
原発事故から時間がたち、放射線教育を続けることの難しさを感じている学校もあります。
千葉大学教育学部附属中学校では、原発事故の直後は積極的に副読本を使って放射線教育に力を入れていましたが、ここ数年は、かつてほど取り組めていないといいます。
当時の状況を知る理科の教員がいなくなり、さらに、学校現場にネットのリテラシー教育など次々と新たな教育が求められるため、放射線教育だけに多くの時間をかけられないのです。
三宅健次副校長は「当初は、千葉県でも農作物の汚染があるのではという心配もあり、保護者も関心があったと思いますが、最近は家庭や学校でも、そういった話題はなくなりました。教育現場は喫緊に取り組む課題がどんどん変わってきているので、そちらをどうしても優先します」と話していました。
学び続ける福島の中学校
一方、原発事故が起きた福島県の中学校では今も放射線教育に力を入れています。
福島県南会津町の舘岩中学校です。
この日中学2年の理科の授業で放射線について学ぶため、生徒は校門近くに集まりました。
そこには放射線量を測定するため原発事故のあとに設置されたモニタリングポストがあります。
さらに生徒たちは班ごとに線量計を使って校舎周辺の空間の放射線量を測定しました。
結果は1時間あたり0.089マイクロシーベルトと、通常の範囲の数値でした。
このあと生徒たちは教室で副読本を使って、自然界には宇宙から降り注ぐ放射線があることなどを学びました。
生徒の1人は「放射線は身の周りにあることを他県の人たちにも福島に住む私たちが伝えてあげたい」と話していました。
芳賀稔教頭は「福島県に住んでいる子どもたちも将来はいろんなところに住むようになると思う。放射線の知識を生かして自分の子どもに伝えていくことが大切だと考えている。福島県の一員として、放射線教育は非常に重要なものだと考えているので、継続的に行っていきたい」と話していました。【NHK】