関西電力の役員が福井県高浜町の元助役から巨額な金品を受領していた問題で、県内の原子力発電所運営に影響が出かねない状況になっている。県職員も金品を受け取っていたことが判明するなど問題は拡大。また関電問題を調査する第三者委員会は年内の最終報告を見送り「年度内も約束できない」としており、事態の収拾にはなお時間がかかる見通し。原発の40年超運転なども先送りになる可能性が高まっている。
2019年9月に問題が発覚した時から関電経営陣の対応は後手に回った。それが問題が長期化し、原発関連のスケジュールを遅れさせかねない事態を招いている。
当初、関電は金品の受領は認めたが、個人名や金額を公表せずに事態を乗り切ろうとしていた。経済産業省などからも批判の声が上がり、20人が合計約3億2000万円を受け取っていたと発表したが、経営陣の辞任は否定。その後、批判はさらに強まり、結局、会長が辞任し、岩根茂樹社長は真相究明のために設置する第三者委員会の最終報告後に辞任することを決めた。
その後も問題は広がりを見せ、福井県は県職員に関する調査を実施し、109人が金品を受領していたと発表。高浜町でも町の第三者委員会を設置し、今年度中に調査結果をまとめることにした。関電の第三者委員会は大飯原発(おおい町)や美浜原発(美浜町)も対象に調査することにしており、全容の解明には、まだ時間がかかる状況になっている。
最も大きな影響を受けるのは、県の同意が必要な原発の40年超運転問題だ。関電は高浜1、2号機と美浜3号機の運転期間を40年から60年に延長するための工事を進めており、高浜1号機は20年5月に工事が完成する予定だった。原子力規制委員会の認可を得ているうえ、同月には高浜町長の任期満了を迎えることもあり、問題発覚前までは工事完成と地元町長選を経て、県の同意までは「すんなりいくのでは」との見方が強かった。
だが、現状では関電の第三者委の最終報告を受け、岩根社長が辞任し、新体制が発足したうえで、新たなコンプライアンス体制を構築。その体制が十分かどうかを県が評価したうえでなければ、稼働に同意することは難しいだろう。第三者委の最終報告が年度を越すようなら、県の同意までには相当な時間がかかることになりそうだ。
福島原発事故以降、当事者の東京電力に代わって関電が国内の原発推進のリーダーになると期待されていた。特に40年超運転については19年6月に退任した豊松秀己副社長兼原子力事業本部長が在任中に「業界全体のためにも実現したい」と話すなど会社を挙げて力を入れていた。その事業の先行きがはっきりしない状況に陥っているのだ。
使用済み燃料の中間貯蔵施設も関電は県外設置を約束し、「20年中を念頭にできるだけ早い時期」に施設の設置場所を示すとしている。ただ、「先頭に立って取り組む」としていた岩根社長が辞任することもあり、約束が守られるのは厳しい状況だといえる。一部の関係者は設置場所が見つかるまで一時的に「乾式」と呼ぶ方法で原発の敷地内で保管することを期待する向きもあるが、乾式貯蔵施設は50年単位で保管できるとされる。それを「一時的」と県民が考えるかは不透明だ。
19年はコンプライアンスの観点から、原発の安全性が改めて問われる年となった。ただ、関電にとっても県にとっても本当の正念場は20年に訪れる。【日本経済新聞】