今年は新規の原発再稼働が「ゼロ」になった。関西電力高浜1号機の年内の再稼働が当初は見込まれたが、安全対策工事が長引いた。その立地自治体である福井県高浜町の元助役から原発マネーが還流した疑惑が、日本の原発事業を根底から揺さぶっており、全容解明なしに再稼働など原発事業は進められない。政府、国会が究明に取り組むよう重ねて求めたい。
元助役の森山栄治氏(故人)から約3億2千万円の金品を受領した関電役員らのうち12人に対し、市民団体が関電に損害を与えた会社法違反などの容疑で告発状を大阪地検に提出した。損害額の支払いを役員らに求める株主代表訴訟へ向けた準備も進んでいる。刑事、民事の責任追及が真相究明につながることを期待したい。ただ、刑事責任の追及はハードルが高いという見方が根強い。
閉幕した臨時国会では進展は乏しかった。野党側は真相解明に乗り出すよう政府に求めたが、政府側は関電が設置した第三者委員会の調査を待つという答弁に終始した。年明けの通常国会で、きちんとした調査をしなければならない。野党が求める関電役員らの参考人招致に与党は応じるべきだ。
疑惑の闇は底なしの様相になっている。原発関連工事で成長した高浜町の建設会社から森山氏に約3億円が渡った事実が国税調査で判明したことが発端だが、森山氏が福井県敦賀市の別の建設会社の顧問を務め、毎月50万円と受注の成功報酬を受け取っていたことなども新たに分かった。還流ルートは幾つもあったのではないか。
全国最多の原発を抱え、再稼働の同意など事業の鍵を握る福井県では幹部職員ら109人が金品を受け取っていた。県の調査委員会の報告書は「森山氏が県の発注工事など県行政に影響を与えた事実は確認されなかった」としているが、行政への信頼は失墜した。職員側の自己申告に基づく調査は不十分だ。県警職員や県議にも対象を広げて再調査する必要がある。高浜町も第三者委を設置したが、幕引きのための調査になるようであれば実施する意味はない。
原発は住民の反対などがあり、立地は容易でない。受け入れた地域に巨額のマネーが流れ込む構図は全国各地にある。関電だけの問題ではないと指摘する関係者は多い。
政府は2030年度の電源構成に占める原発の割合を20~22%に引き上げる方針だが、原子力規制委員会の審査や安全対策工事の長期化で、実現は疑問視されている。
東京電力福島第1原発事故を受けて全原発が停止した後、規制委の審査を申請した原発は27基あるが、再稼働したのは5原発9基にとどまる。
さらに来年以降、テロ対策で義務付けられた施設の完成が期限に間に合わない再稼働済みの原発は停止する。最初は来年3月に停止する九州電力の川内1号機だ。関電の高浜3、4号機なども停止を迫られそうだ。
東北電力の女川2号機が再稼働に必要な規制委の審査に事実上合格した。東日本大震災で大きな被害を受けた女川の再稼働が実現すれば、世論の流れが変わると期待する声が電力業界にあるが、その時期は見通せない。
闇マネーの解明が先決だが、一方で日本のエネルギーの将来をどうするかという根本的な議論を進めることが必要だ。【共同通信】