関西電力の役員ら20人が、高浜原子力発電所が立地する福井県高浜町の元助役から総額3.2億円相当の金品を受領していた問題で、関電は社内調査報告書を公表した。報告書は関電に自浄能力が全くないことを如実に示していた。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
被害者ぶりを強調したお手盛りの調査報告書
関西電力の役員ら20人が、高浜原子力発電所が立地する福井県高浜町の元助役から2011年から18年までの間で総額3.2億円相当の金品を受け取っていた問題で、関電は2日、社内調査報告書を公表した。
八木誠会長と岩根茂樹社長は記者会見を開いて謝罪したものの、辞任については早々に否定した。
では、公表された社内調査報告書は一体どのような内容だったのか。結論から言えば、まるで関電自身が被害者であることを強調し、身内に甘いお手盛りの報告書だった。
報告書そのものは全20ページでまとめられ、参考資料には金品を受領した八木会長らの氏名(一部匿名)、金品の項目、合計額、処分内容などが記されている。
報告書は、八木会長や岩根社長などに金品を渡していた元助役の森山栄治氏(今年3月に90歳で死去)や、関電から原発関連工事を受注し、その手数料として森山氏に約3億円を支払っていた吉田開発を中心に記載している。
驚くべきなのは、森山氏の横柄さを強調している点だ。
長くなるが、報告書の中身をそのまま引用したい。
「本件は、要するに、当社役員・社員や地元関係者に対し、大きな発言力と影響力を持っていると、対応者において認識していた森山氏が、その立場や当社との関係維持に固執し、あるいは自己の存在感を誇示するために、対応者に対し多額の金品を渡し、対応者がこれを返却しようとすると恫喝などの異常というべき言動でこれを拒絶したため、対応者が返却できなかった金品を保管し続けて返却の機会を窺う等、腐心していたという案件である」
これが、関電の今回の件に対する根本的な認識なのだ。
関電は、役員らが“一時的”に金品を受領したことや、その対応を個人に任せきりにし、組織として動かなかったことはコンプライアンス(法令遵守)上、問題があったと報告書で反省しているものの、結局のところ、「森山氏のパーソナリティーの特殊性・特異性」(報告書ママ)によるものだと言いたいのだ。
コンプラ委員会にコンプラの意識ゼロという皮肉
呆れるのは、関電の自浄能力のなさである。
社内調査については、関電のコンプライアンス委員会の社外委員を務める3人の弁護士の指導、助言を受けて、関電のコンプライアンス部門(法務部門)が実施した。
報告書は、森山氏の“悪代官”っぷりを散々書き連ねているが、実は、ヒアリングをしたのは、森山氏の対応に当たった関電の社員らのみで、森山氏側に直接ヒアリングしていないのだ。明らかに客観性を欠いていると言わざるを得ない。
これについて関電側は「国税当局による調査が入っていたため」などと釈明している。
この報告書の結果を受けて行なった社内処分の基準についても、関電には明確なものがなかった。
関電側は会見で処分内容に関して「金額の多寡や組織の責任の重さ」などと説明したが、20人の中で最も多い総額1.2億円相当の金品を受領した鈴木聡常務執行役員と、八木会長、岩根社長よりも多い4000万円相当を受領した森中郁雄副社長執行役員は、厳重注意にとどまった。
最も自浄能力のなさ、コンプライアンス意識が欠けていたと言わざるを得ないのは、社内調査が2018年7月から9月に行われたにもかかわらず、これについて取締役会に報告すらせず、しかも今回の不祥事が報道によって明らかになるまで公表しなかったことだ。
しかも、社内処分を受けた森中副社長、鈴木常務、大塚茂樹常務執行役員は、これらの処分を株主に公表しないまま今年6月の株主総会で昇格人事が承認されている。
これらの一連の判断を下したのが、他でもない、コンプライアンス委員会の委員長を務める岩根社長なのだ。関西、そして電力業界を代表する上場企業のトップにコンプライアンスもガバナンス(統治、統制)の意識もなかったというのだから、開いた口が塞がらない。
関電の信頼は、完全に地に落ちた。
コンプライアンスに欠け、ガバナンスも効かない企業に原発を運営する資格はあるのだろうか。
電気事業連合会の会長職も含めて改めて進退を問うと、岩根社長は「再発防止、原因を徹底的に究明して社会に公表し、なんとかリスタートを切らせていただきたい」と声を振り絞った。
関電は独立した第三者委員会による調査を実施する方針を明らかにした。
しかし、いくら第三者の目を入れたところで、自浄能力がない関電にリスタートができるだろうか。【ダイヤモンドonline】